日本テレビのドラマ「セクシー田中さん」の原作者で、漫画家の芦原妃名子さんが亡くなったことを受け、日本テレビと小学館が出した調査報告書に批判が殺到した。桜美林大学の西山守准教授は「『芦原さんの死去は全て日テレのせい』という安易な犯人捜しに終始しては、『ドラマ作りはどうあるべきか』という本当に学び取るべきことにたどり着けない」という――。
日テレ、小学館の調査報告書発表で「批判合戦」に逆戻り
「セクシー田中さん」の一連の問題について、5月31日に日本テレビが、6月3日に小学館がそれぞれ調査報告書を公表した。
発表当初は、両者の報告書の主張の食い違いを中心に、ネットや週刊誌では様々な議論が飛び交った。多くは関係者に対する批判を含むもので、矛先の多くは日本テレビに向かっていた。SNSではドラマの脚本家を批判する声も目立った。小学館に対する批判も少なからず見られた。
テレビや新聞も踏み込んだ報道は少なく、多くが日本テレビと小学館の主張の食い違いを批判する内容に終始していたように思う。世の中全体からすると「詳しくはよくわからないが、何か酷いことが行われたようだ」という印象が残ったまま、一連の事案はすでに風化しつつあるように見える。
建設的な論考は目立たず、原作者である芦原妃名子さんの死の直後と同じような批判合戦が再び巻き起こってしまったように思える。
残念ながら、本件から本当に学び取るべきことが、いまだ十分に語られていないように思えてならない。
それは、今後、原作者を尊重したドラマ、さらには実写作品をどう作っていくのかということだ。
ここに目を向けずに、芦原さんの直接的な死の引き金となったと思われる他者への攻撃を容認し続けていると、「セクシー田中さん」で起きたような悲劇が違った形で繰り返されることになりかねない。