テーブルに置いていたスマホに大量のソースが…
その後、飲みながら料理を食べていると、店員が卓にヌッと来て、食べ終わって空いた皿を無言で下げていく。しまいには3分の1程度残っているレモンサワーまで下げようとしたので「あ、まだ飲みますよ」と言って止めた。普段なら目に余る行動である。しかしここは大らかに、許そう。
皿を下げるときに一言声をかける程度のこともできない店員だっている。彼の気持ちはわからないけれど、理解できないことが間違いだとは限らない。
次にその店員が空いた皿を下げようとした時のこと。皿を取り上げた拍子に、皿に残った肉のタレがこぼれ、テーブルに置いてあった僕の携帯電話にかかった。その時僕は、話に夢中で気付いていなかったのだ。
だが、向かいに座っていた友達が「え、タレめっちゃかかったよ」と教えてくれ、見るとかなりの量が携帯電話にかかっていた。そして僕が気付いた時には、店員は無言のまま卓を去ろうとしていたのだ。
流石にこの量のタレをこぼして気付かない訳はない。卓を去ろうとしていた店員が友達に指摘されたことにより、初めて「あぁ、申し訳ありません」と謝罪をしておしぼりを何枚か持ってきた。違和感を抱きそうな行動だが、ここは大らかに、許そう。
タレを拭いたおしぼりを片付けようともしない
無言で皿を下げて、タレを携帯にかけてしまっても、客が気付いていなければ知らないふりをして去るなんて行動は普通はできない。しかし、そんな小ずるい生き方の人もいるのだ。謝るよりこの場から逃げて、あわよくば責任の所在が有耶無耶になればいいと思ってしまう、そんな考えを持ったしょうもない人もいるのだ。
ところが僕がおしぼりで携帯を拭いていると、他の席から「すいませーん!」と店員を呼ぶ客の声が聞こえてきて、こともあろうにその店員はふらっと呼ばれた卓に行ってしまったのだ。もちろんこちらの認識ではまだ謝罪の真っ只中である。他の席からの声に「しめた!」と言わんばかりに「失礼します」の一言も無く、この場から立ち去ってしまったのだ。だが僕は怒らない。ここは大らかに、許そう。
謝罪もしっかり終わらせず、他の客に呼ばれたのをいいことにその場から離れる。そんな馬鹿もいる。世の中みんなが誠実な訳じゃない。謝罪相手の目の前からあからさまに逃げるような、愚かな人生を送ってきた人だっているんだ。
僕はそのまま携帯電話を拭き続けた。そして拭き終わったおしぼりを机の端に積んでおいた。そのおしぼりをいつまで経っても店員は片付けない。タレをかけられたほうは、このおしぼりの山を見ているだけで嫌な思いをすることもあるだろう。皿はすぐに下げるのに、このおしぼりは待てど暮らせど片付けない。だがそこは大らかに、許そう。