人を注意したり、間違いを指摘したりすることは悪いことなのか。お笑いコンビ「ハライチ」の岩井勇気さんが「誰に対しても怒らない」ことを実践した1日を、著書『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』(新潮社)より一部を紹介しよう――。
岩井勇気さん
(C)新潮社
岩井勇気さん

「世渡りの上手い人」になるために大らかな心を持ってみた

僕は人の行いに対して厳しい目で見てしまっているのかもしれない。他人の間違いが気になることの多い上に、こちらが被害を受けていると判断すれば、その場で相手に指摘することも辞さない。

しかし一般的な“世渡りの上手い人”の人物像といえば真逆で、人の間違いを指摘せず適度にスルーして、自分にとってどうでもいい人のために割く時間をいかに少なくするか、という生き方をしている印象だ。

僕も意識をすれば“世渡りの上手い人”になれるのか。そんな興味から、あるテーマを持って生活してみることにした。それは“許す”ということだ。

大らかな心を持って人に厳しくならない。他人と自分は同じ存在ではないので、自分の基準で「おかしい」「どうして」と思わない。

これができるようになれば、もう少し器用に生きられると思い、実践することにした。

居酒屋で出会った仕事のできない店員

先日、友人2人と居酒屋に行った。テーブル席に通され、メニューを見て飲み物を決めた。そこで店員を呼ぼうと思ったのだが、目についた店員は、他の客の注文を取ったり、料理を運んだりしていて、なかなか声をかける隙がない。

ホールにいるのは見た目が20代半ばの若い男の人で、その店員が1人でこぢんまりとした店の客席を切り回しているのだが、立ち働く中で何度か僕と目が合っても、こちらに注文を取りにくる気配がない。

席に通してからしばらくの間、飲み物の注文すらしていない客がいても、この店員は気にならないのか? そんな疑問が一瞬頭を過ぎったが、大らかな心を持って、人に厳しくならず、許そうと決めたのだ。

自分の基準で考えてはいけない。まだこちら側がちゃんと呼び止めていないじゃないか。それに店員自ら聞きに来ることで、客にプレッシャーを与えてしまうと考えている可能性だってある。

僕は気持ちを鎮め、隙を見計らって店員に声をかけた。