店を出た途端「ふぅ~」と息が漏れた

ここまできても客の気持ちを考えられない、そんな糞人間だっている。僕が店長だったらこんな店員は即座にクビにしている。でも店長は僕じゃない。自分の考えを押し付けてはいけない。

怒らずに、もうある程度お腹は満たしたので店を出ようと、伝票を持ってレジに向かった。するとホールの店員がレジに回ってきて会計を始めた。そして会計が終わって店を出るまで謝罪は一切無かったのだ。

岩井勇気『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』(新潮社)
岩井勇気『この平坦な道を僕はまっすぐ歩けない』(新潮社)

その上、一度謝ったことでもう清算されたかのように、レシートと共にマニュアル通りに次回使えるサービス券を渡してきたのである。何をもってサービスなんだ。そんなことを言いたくなるところだが、ここは大らかに、許そう。

どういう神経でサービス券を渡しているのかは僕にはわからない。でも彼は僕じゃない。これで次も来てもらえると思っている、そんな察しの悪いゲス野郎だっているんだ。人に迷惑をかけてもしっかり謝罪できない、そんな奴はロクな育ちをしてきていないだけなんだ。

僕はレシートとサービス券を受け取り、店を出た。出たところで、ふぅ~、と息を吐く。よかったよかった。怒らず、被害を受けても大らかにいられた。僕はその日、人に対して一度も間違いを指摘せずに過ごすことができたのだった。

「許す」と「見下す」は紙一重

“許す”というテーマを持って生活してみた。それでわかったことがある。“許す”と“見下す”は紙一重だ。人が間違っていても、その人を見下すことで「怒ってもしょうがない」と思える場合がある。

他人に怒らない人ほど、他人に期待していないのかもしれない。そして、それは自分には合っていない。なので、考えを改めることにした。

僕は今後、人を対等に見て、公平な基準に従って、おかしなことがあったら、ちゃんとキレよう。そう心に決めたのだった。

岩井勇気さん
(C)新潮社
岩井勇気さん
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