中田翔を獲得した時は40、50回広島に通った

西谷氏は、スカウティングにおいてフットワークの軽さを見せる。選手からすると、日本一を誰よりも知る監督が直接自分に会いに来るとなると、心を動かされることは間違いない。社会科の教師でもある西谷氏がスカウト活動に充てられる時間は、基本的に週1日、土曜日の午前中だけだ。

午後からは練習があるため、ノックが始まる午後2時までにはグラウンドに戻る。「土曜日は朝6時前後に家を出れば、近場なら3、4チームは見て回れる。最初の選手は1打席目だけ見て、次のところへ行ったりする。そうして何度も顔を出すことが大事※6」と言う。

広島出身の中田翔を獲得した時は40、50回広島に通ったエピソードもある。金曜日の終電で広島へ移動し、ビジネスホテルに宿泊して、翌日は早朝から中田を見て、午前11時広島発の新幹線で大阪へ戻るスケジュールだ。

札幌ドームのオーロラビジョンに映った中田翔(画像= Ho13/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

ただ、この西谷氏ですら、選手のもとへ頻繁に通い、最後の最後で振られたことも一度や二度ではない。「そりゃもう、がっかりっすよ。でも、それはよくあること。私は本気で好きになった選手は違う高校に行っても気になるんです。どんな選手になってるのかな、と※7

また、近年はOBでコーチの石田寿也氏が中学校を回り、作成したおよそ200人のリストの中から、西谷氏が2〜3年後のチーム編成を想像し、選手の適性を見極め、声をかけているのだ。

この行動力があるからこそ、大阪桐蔭は毎年のようにトップクラスの選手を揃えることができるのだろう。最強のチームづくりをする前に、リクルーティングの段階から、ここまでやっているからこそ長年トップに君臨しているのは間違いない。

加えて、大阪桐蔭は退部者の少なさも有名である。一学年20人ほどの少数精鋭で、育成をしているのだ。そのため、実戦の経験も積みやすい環境でもある。

「全選手平等に、同じぐらいの打席に立たせたいと思っていて、時には2か所に分かれて対外試合をすることもある。B戦はあくまで育成の場なので、相手校の了解を得て、DHをふたりにする特別ルールを設け、10番打者までいる打線で戦ったりもします※8」とコメントするように、レギュラーメンバーが中心となるAチームの試合だけでなく、控えメンバーが中心のBチームの試合も数多く組み、野手なら打席数、投手ならイニング数に差が出ないように配慮しながら起用していくのだ。

控えメンバーまで満遍なく出場機会を与えられて、切磋琢磨する。このように、引退まで部内の競争意識が高いからこそ、離脱者が少なくかつ強い組織をつくれるのだろう。

※1「【大阪桐蔭 元主将対談#2】西谷監督に朝5時半から課された〝苦行〟とは?『寝たかった…(笑)』〝強豪校あるある〟の厳しい感じとは違う選手と監督の関係性」スポーツナビ 野球チャンネル、2022年7月21日
※2 「史上初の二度目の春夏連覇を導いた西谷監督が語る大阪桐蔭に必要な2つのマインドから見える一流選手になる条件」高校野球ドットコム、2020年1月23日
※3 同前
※4 同前
※5 同前
※6 「監督自ら50回通って選手を獲る。大阪桐蔭の土台は徹底したスカウト。」Number Web、2017年4月3日
※7 同前
※8 「【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ」NEWSポストセブン、2024年3月28日

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