しつこく食い下がって本音を聞き出した

南アジアのインドやバングラデシュは、東南アジアと同じく排出ガスによる大気汚染が深刻で、三輪タクシー「リキシャ」のEV化ニーズがありました。我々がこれまでに培った電動バイクやEVの技術が十分に生かせます。

入院から2週間後、幸いにも娘は無事に意識を取り戻してくれました。同じタイミングで、南アジアへの賭けはインドよりも先にバングラデシュで結実します。2月半ばに現地の二輪メーカー・ランナー社と合弁会社を設立。現地で組み立てを行う電動三輪車「R6」を、ランナー社が有する約400店舗の販売網を活用して販売しました。

バングラデシュにはすでに中国の電動三輪車が進出していましたが、故障が多くユーザーに強い不満がありました。また天然ガスの価格が上昇し、旧来のリキシャからの買い替え需要がありました。バングラデシュでは補助金に頼らずとも、十分に電動三輪車が売れる土壌が揃っていたのです。

とはいえ、現地の人々が口々に言う「素晴らしい製品だ。実際に発売されたらぜひ買いたい」という評判が信用ならないことは、ベトナムで思い知りました。私は幾度も現地を訪れ、想定されるユーザーに「本当に買いたいか」「幾らなら買うか」「どういう使い方をするのか」をしつこいほど食い下がって、本音を聞きました。

現地責任者は当初「従来型のリキシャは約18万円です。R6なら10万円高くても売れます」と鼻息荒く言っていたのですが、私が聞いて回った感触ではどうも怪しい。私は「R6」の販売価格を従来型より10%高いだけの約20万円に設定し、発売に踏み切りました。

バングラデシュでの徳重氏(左から2番目)。フィリピン、ベトナムでの反省を生かし、急成長を実現した。

結果、「R6」は爆発的にヒットしました。EVという先進性、日本メーカーに対する信頼、ランナー社の販売力が見事にかみ合いました。さらに9月にはインドでも三輪リキシャ「T4」を販売。着々と販売地域と販売実績を伸ばしていきました現在は年間2万台を出荷し、同国の電動三輪車でシェアトップを握っています。

目標だった売上高10億円も達成し昨年度は30億円に到達しました。我々は土壇場のところで負の連鎖を食い止め、新しい市場で息を吹き返し、再び成長路線に戻れたのです。

中国Xiaomi社の創業者・雷軍レイ・ジュンが「風が吹くなら豚でも飛べる」と言ったように、スタートアップが成功する鍵は「スジのいい当たりを見つける」ことに尽きます。努力が実を結ぶか無駄になるかは、ひとえに創業者が下した最初の選択にほぼすべてが懸かっている。そう言っても過言ではないほど、「どの市場に踏み入るか」が重要なのだと学びました。

22年、我々はEV充電インフラ事業に参入し、社名を「テラチャージ」と改めました。現在日本にはEV充電器が約3万基しかないところ、テラチャージは事業立ち上げから1年9カ月で2万5000基もの受注を獲得。急成長を遂げています。修羅場を抜け、土壇場から逆転し、我々は最高のスジを当てました。この充電インフラをいかに世界中に広めていくかが、我々の次の勝負です。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。

(構成=渡辺一朗 撮影=大槻純一)
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