「売れるだろう」とメディアも絶賛したが…

2010年に電動バイクの製造・販売を手掛けるテラモーターズ(現・テラチャージ)を設立しました。ビジネスの理論を学び、スタートアップについても知見を備えて起業したつもりでした。しかし、ビジネスは理に適っていて条件を満たせば成功が掴めるような、甘い世界ではない。そのことを思い知らされたのが14年の経験です。

徳重 徹
徳重 徹
テラチャージ代表取締役社長。1970年、山口県生まれ。九州大学工学部卒業後、住友海上火災保険(現・三井住友海上火災保険)入社。商品企画・経営企画に従事。退社後、米Thunderbird経営大学院にてMBAを取得。2010年にテラモーターズ(現・テラチャージ)を起業。

我々は創業当初から世界を舞台に勝負することを見据え、市場規模が大きく競合優位が取れそうな新興国への進出を狙っていました。そのチャンスが創業2年目に訪れます。

フィリピンでは三輪タクシー「トライシクル」が庶民の足となっています。当時のマニラで走っていた約350万台の三輪タクシーは首都近郊の大気汚染の一因と考えられていたため、フィリピン政府はまず10万台をEVに置き換えようとプロジェクトを進めていました。プロジェクトは幾度となく中断したのですが、12年末に突如風向きが変わりました。ADB(アジア開発銀行)がこのプロジェクトに3億ドル(当時のレートで約246億円)を拠出することになったのです。これで実現性が一気に高まり、我々は入札に参加することを決めました。

入札に際して我々はA4用紙を積み上げて高さ1メートルほどにもなる資料と、約3000万円をかけた試作車を完成させました。日本からは東芝、ヤマハ、韓国からはLG、サムスンと、巨大資本も参加していましたが、試作車まで用意したのはウチだけでした。プロジェクトに懸ける本気度を示し「自分たちにはここまでできる」とアピールする必要があったからです。

その結果、テラモーターズは審査を通過した3社のうちの1社になることができました。私はここが勝負どころと見て第三者割当増資で10億円を調達、量産体制を整えました。

しかし、プロジェクトは遅々として進みませんでした。フィリピン政府やADBの詰めが甘かったのです。

当初、我々はADBなりフィリピン政府なりが完成車を買い取るなどして、トライシクルの運転手に貸与するのかと思っていました。ですが実際には「とりあえず販売してくれ。利用者に後から補助金をつけるから」という施策になったのです。

トライシクルの運転手はほとんどが低所得層の個人事業主です。環境配慮を理由にわざわざ高額な最新型EVを買うはずがありません。プロジェクトは2度もキャンセルになりました。最終的には、量産体制を整えたにもかかわらずプロジェクトからの撤退を余儀なくされました。

ほぼ時を同じくして我々はベトナムでも、電動バイクの生産・販売計画を進めていました。2年間の歳月と開発費用2億円以上を投じた「A4000i」が完成。スマートフォンと連携する世界初の機能がウリで前評判は上々、現地メディアにも絶賛されました。「これなら欲しい」「売れるだろう」。事前の市場調査で聞かれた声に安心して、14年9月にはハノイ市に豪華な販売店をオープン。15年中に10店舗まで拡大する計画を立てました。