ジブリが作品作りに専念できる体制が整った

加えて重要な点が、スタジオジブリの経営基盤の安定化という点です。

創業者である宮崎駿監督の高齢化が進み、後継者問題が囁かれる中で、スタジオジブリにとって強力なパートナーの存在は不可欠でした。事業承継のリスクを見据え、安定的な資本提携先を求めていたのです。

小金井市にあるスタジオジブリ本社(写真=Akonnchiroll/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

その受け皿となったのが日テレでした。資金力とメディアパワーを兼ね備えた心強いスポンサーを得ることで、ジブリは腰を据えて作品作りに専念できる体制を整えたのです。

他方、日テレにとっても望むべきパートナーとの巡り合わせだったと言えます。

「ジブリの精神」とも言うべき作品へのこだわりや、チャレンジ精神、そしてエンターテインメントでよりよい社会を作ろうとする理念。

それはテレビマンとして、高品質なコンテンツを追求し続けてきた日テレ社員の思いと、重なる部分もあったはずです。

だからこそ、日テレはジブリの企業文化を何より大切にすると宣言したのです。

クリエイティビティーを最大限に尊重し、あくまで作品作りのパートナーとしてサポートしていく。

ジブリが滅びぬために、日本のアニメーション文化の灯を消さぬために。日テレには、そんな決意が込められていたのかもしれません。

生き残りをかける中小企業へのヒント

「千と千尋の神隠し」関連のインタビューで、宮崎駿監督はこう語っています。

「本当の生きる力は、たぶん、自分の信じる道を頑固に進む勇気なんだと思う」

日本を代表する2つの企業が手を携えた今、新しいアニメーションの歴史が始まろうとしています。

スタジオジブリの選択は、日本の中小企業が生き残りをかけて取り組むべき戦略を示唆する、象徴的な出来事だったのかもしれません。

デジタル化の波が加速し、業界の垣根を越えた競争が激化する中で、単独の力だけで勝ち残ることは難しくなりつつあります。市場環境の変化を踏まえつつ、自社の強みを再定義し、パートナーとの協働によって新たな価値を生み出していく。そのためには、従来の固定観念にとらわれずに、柔軟に戦略を描き直す勇気と実行力が求められるのです。