道長と会い続けた可能性はかぎりなくゼロに近い

ところで、「光る君へ」では、まひろと道長はかつての恋人同士であり、まひろにとって道長は「忘れえぬ人」ということになっている。

第27回「宿縁の命」(7月14日放送)でも、石山寺(滋賀県大津市)で、まひろと道長はばったり会い、道長からなにかしら口説かれるようだ。

6月30日付朝日新聞の記事で、脚本を担当する大石静は、まひろと道長が「幼少期に知り合い、淡い恋心を抱くようにした」「時代考証の先生のチェックを経たうえです。まひろと三郎(後の道長)の家は離れておらず、『幼少時代に知り合っていたこともあり得ない話ではない』と、お墨付きをいただいた」と語っている。

たしかに、「あり得ない話ではない」だろう。「時代考証の先生」も、それを肯定はできないまでも否定する材料もなかった、ということだと思われる。むろん、ドラマを盛り上げるためにそういう設定も必要なことはわかる。

ただ、身分が隔たる2人が、「幼少期」はともかく、その後も頻繁に会って深い関係になり、別れたのちもたがいに惹かれ続け、ことあるごとに遭遇したという可能性になると、「あり得ない話ではない」にしても、かぎりなくゼロに近いだろう。そもそも、女性は異性にみだりに顔を見せてはならず、出歩くことも少なかった時代だから、なおさらである。

無理に道長とからめず、宣孝との結婚生活でまひろがどんな心境を重ねていったのかをていねいに描いたほうが、むしろドラマとしても深まり、『源氏物語』の作者の精神がどのように形成されていったか、きちんと描けたと思うのだが、余計なお世話だろうか。

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