「朝9時から夜9時まで週6日」は無理でも…
一時期はアリババ、ファーウェイなどの大手ITのほうが「給料が高い」などの理由で人気だったが、大手ITは「996」(朝9時から夜9時まで週6日働くこと)で、出世競争も厳しいことからストレスも多く、深夜まで働くことも多い。リストラも頻繁に行われるため、不景気になって以降は、再び公務員の人気に火がついた。コロナ禍により、さらに人気が増し、このような倍率になったのだ。
公務員試験の出願者数は09年に初めて100万人を超え、20年は157万人、23年に300万人を突破した。あまりにも急速な人気ぶりから、いかに今の中国が就職難であるのかを逆に物語っているかのようだ。
公務員の給料は高くない上に、海外旅行などの渡航制限(所属によって異なるが、1年に3回まで、と規定されているところもある)があるなど、不自由な面もある。だが、残業がほとんどなく、民間企業のような出世競争もあまりないこと、景気に左右されないなどの理由から、志望者が後を絶たない。
筆者の20代後半の知人女性は、北京出身で、北京の中堅大学を卒業後、数年前に準公務員的な公的機関の職員になった。正規の公務員ではないが、ほぼ公務員と同様の待遇を受けられることに満足していた。
中国共産党員が「奥の手」になる理由
その女性によれば、勤務先には朝9時に出勤し、退勤は午後5時。残業は皆無で、昼休みはたっぷり2時間(11時~13時)あるので、昼食を食べに自宅に帰ったり、別の組織に勤務する友人とゆっくりランチに出かけたり、昼寝をしたりすることもあると話していた。
給料は約8000元(現在のレートで約17万6000円)と、一流企業に比べれば多くはないが、その女性は親と同居しているため「不満はない」という。おまけに、勤務先内の売店には、市場よりも安い野菜なども売られていて、特別価格で購入が可能など、特権もあるとの話だった。
だが、前述の通り、公務員試験に合格するのは並大抵ではなく、多くの人は受験に失敗、挫折する。就職浪人の末、どこかの企業に潜り込むしかないというのが現実だが、そうしたご時世もあり、昨今、若者の間で増えているのが中国共産党の党員になる、という「奥の手」だ。党員になれば、少しでも就職に有利になる、という目論見からである。大学院に進学したり、留学したりするのに加えて「箔づけ」の一つともいえるかもしれない。