日本以上に過酷な「椅子取り合戦」が起きている

また、この知人は「ほかの学科の学生は就職浪人したり、アルバイトしながら公務員を目指したり、という感じですが、なまじ大学まで進学したため、仕事を選り好みする学生もいて、なかなかマッチングがうまくいっていないのが実情だと思います」と語る。

中国では日本のように明確な「就活」シーズンはなく、リクルートスーツを着て企業の説明会に行く、という習慣もあまりない。企業の合同説明会や就職フェアのようなものは存在するが、日本のそれとは異なり、皆が参加するというものではない。個別の企業がツテのある大学や各教授の研究室を訪問して数人募集したり、親のコネで企業に口を利いてもらったりするというケースはある。

中国で人気の企業の就職先といえば、大手銀行や大手石油会社などの国有企業や、電話会社、通信会社、その他、いわゆるBATH(百度、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれる有名IT企業などだが、そうした企業に就職できるのは、ごく一握りの成績優秀者だけだ。中国は人口のわりに、大手企業の数が少なく、大学受験同様、「椅子取り合戦」は熾烈だ。

公務員試験の倍率は驚異の「最大3572倍」に

以前からそうだったが、2020年からのコロナ禍による長引く不況、21年から実施された「共同富裕政策」(ともに豊かになる、という意味の政策で、格差是正が目的。大手IT企業は寄付を強いられ、学習塾の一部は閉鎖に追い込まれた)の影響により、若者に人気があった新興企業への就職も、なおいっそう、厳しいものになってしまった。

そうなると、中小企業に就職するか、地元に帰って就職を探すか、公務員を目指すか、などの選択肢になる。前述のように、大学生の中には、無名の中小企業への就職は「メンツが立たない」という理由で希望しないことも多く、地元(地方)に帰って就職するといっても、地元には大手企業が少なく、給料も少ない。そうしたことから、公務員の受験者がこれまでになく増加している。

中国で公務員試験は「国考」(グオカオ=国家公務員考試の略)と呼ばれる。23年10~11月に行われた公務員試験の出願者は過去最多の303万人に上り、平均倍率は77倍になった。最も競争率が激しい職種の倍率は3572倍といわれ、「宝くじに当たるよりもずっと難しい」とまで言われた。

公務員は、中国では「鉄飯碗」(ティエファンワン=鉄でできたご飯茶碗=決して割れないという意味から、絶対安定を意味する)と呼ばれ、もともと人気があった。