「機嫌がいい」だけでうまくいくのか

パフォーマンスや健康、そして関係の質から「機嫌がいい」ことの重要性について述べてきたが、必ずこんな疑問を呈する人がいる。「『機嫌がいい』だけでビジネスはうまくいくのか?」との疑問である。

辻秀一『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』(日本実業出版社)

答えは「(それだけでは)うまくいかない」。ただ「機嫌がいい」だけで、するべきことをしていない状態は「偽ごきげん」とも呼んでいておすすめできない。「機嫌がいい」心の状態で、するべきことをするからこそパフォーマンスが上がるのだ。

「機嫌がいい」心の状態で「栄養」「休養」「運動」などのライフスタイルを送るので、真の健康が手に入る。そして、「機嫌がいい」状態でコミュニケーションし、対話し、組織の目的や目標、あるいは個々人の違いなどを高いレベルで共有していくからこそ、組織に高いレベルの「関係の質」が生まれ、ダニエル・キム氏が提唱する「組織の成功モデル」の「思考の質」や「行動の質」、そして「結果の質」につながっていくといえるのだ。

心理的安全性も多様性も、個人の心の安定から始まる

最後に「関係の質」で、近年ビジネス界で話題になっているのが「心理的安全性」と「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」だ。さまざまな施策を各企業が試みているが、やはりダイバーシティ、インクルージョンともに組織内に仕組みやシステムをつくっても生み出せるものではなく、組織を構成する人財1人ひとりが自分の「機嫌がいい」状態に責任を持っていることが必要だ。

すなわち、個人のあり方として「機嫌がいい」を徹底することが、まずもって先決条件なのだ。揺らがず囚われずの心の状態が、人間関係に心理的安全性や多様性と包含をもたらしていることは間違いない。個々のマインドが揺らぎや囚われで不機嫌なうちは、これらの組織文化は生まれないのだ。

だからこそ、本書のタイトルでもある、『「機嫌がいい」というのは最強のビジネススキル』ということになるのである。「機嫌がいい」をセルフマネジメントできるスキルに自己投資し、そのようなスキルが育つような組織環境への投資がビジネス界でも今後広がっていくことを心から願っている。

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