プーチンへの支持は絶対ではない

――それほどまでのプーチンへの信頼感とは何なのでしょうか。

【小泉】ソ連崩壊後の貧しい状況からわれわれを救い出してくれた、生活の安定をもたらしてくれた、という認識があるからです。例えば軍はソ連崩壊後、予算もなく名誉もなく、ひどい状況に置かれていました。その中で、プーチンは兵舎や制服を新しくし、名誉を与えてくれた恩人でもあります。

ソ連時代からの貧しい生活を知る人たちからすれば、プーチンは生活に安定をもたらしてくれた、まさに救世主です。だからこそ、不安定をもたらすプーチン、となると存在意義が否定されて人気がなくなる。プーチンの暴力が自分たちに向いてくるとなったら支持を失うので、プーチンはギリギリの線を探っているのではないでしょうか。

――動員がない限り、政権が揺らぐことはないとすると、この戦争はどのように終わりうるのでしょうか。

【小泉】当初は「停戦は朝鮮戦争モデルを参考にすべきだ」という指摘もありましたが、朝鮮戦争の際には南北朝鮮は双方ともに甚大な被害が出て、初めて停戦という話が出てきましたし、スターリンが死んだのも大きな要素でした。

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どうやってこの戦争は終わるのか

――スターリンは74歳で脳卒中で死亡。一方プーチンは現在72歳ですが……。

【小泉】本人はあと10年は生きるつもりでいるでしょうし、後継者次第ではよりどうしようもない事態に至る可能性すらあります。プーチンが表舞台から去り、さらに穏健な指導者が誕生するという二重の幸運に期待するのは、あまりにも望み薄と言わざるを得ません。

ではどういう終結が考えられるのか。

この戦争の終わり方を考えた場合に、両極を「ロシア完全勝利」か「ウクライナ完全勝利」だとすると、お互いの「完全勝利」の条件は相手の消滅となります。

ロシアがキーウを占領してウクライナという国家を消滅させてロシアに併合するか、ウクライナの戦車部隊がクレムリンまで進撃して、ロシア国家がなくなるか。その2つの極を考えた場合、ウクライナ完全勝利のシナリオはほぼあり得ません。

一方でロシアが完全勝利するシナリオは全く考えられないものではない。さらに、もっと手前の段階の、ロシアの傀儡政権をウクライナに樹立するとか、フィンランド化(「民主制と資本主義を維持しつつ、ソ連やロシアの意思には絶対反抗しない」という前提の外交政策)など、さまざまなオプションは考えられます。