「質感向上」か「わかりやすさ」か

走りに関しても新型N-BOX、スペーシアともに基本パワートレイン回りは旧型のブラッシュアップ程度で、新型スペーシアがノンターボに他のスズキ車で使っていた低燃費タイヤと空力を改善してきたぐらいでした。

しかしN-BOXが燃費スペックをほとんど変えずに、走りの質感、乗り心地、静粛性にこだわり、「質感向上」してきたのに対し、スペーシアは表面的なノンターボの燃費スペックを結構上げてきました。

加え装備面でもN-BOXにはない「スリムサーキュレーター」や「リア席USB」、前代未聞の「マルチユースフラップ」、「ステアリングヒーター」などを装備。

筆者撮影
オットマンとしても使える新型スペーシアの「マルチユースフラップ」

走りや使い勝手面でも、N-BOXが目に見えづらい「質感向上」作戦できたのに対し、スペーシアは数字や装備面など「わかりやすいコンテンツ増加」作戦で対抗してきたのです。

これまたラーメンに例えれば、出汁の味を研ぎすませてきたN-BOXに対し、スペーシアは新たなる健康素材の初採用とトッピング量の増加で迫って来たようなものです。分かりやすさが違うのです。

総合的にはN-BOXのほうが上だが…

とはいえ冷静に見て、小沢はN-BOXとスペーシアだったら今なお前車の方が総合的な質は高いと思います。根本的なホイールベースの長さからくる室内の広さ、加速フィールの気持ち良さ、静粛性、内装クオリティ、乗り心地、どれを取ってもアドバンテージはあるでしょう。実燃費もモード燃費ほどの差はないでしょうし、N-BOXが今回、本来の魅力たる質の高さをさらに上げてきた戦略もわからなくはないのです。

しかしスペーシアの方が、味だのなんだの云々以上に「新しくなった感」「お買い得さ」「飛び道具的装備」では確実に上回っていました。

新車が出揃った中で、どこ変わったの? と聞かれた時に長々とわかりやすく話せるのは間違いなくスペーシアの方なのです。その差が、1年経たずに販売8割台に落ちたN-BOXに表れていると思います。

筆者撮影
N-BOXに比べて「こってり」感のあるスペーシアのインパネ

真の要因はダイハツにあった

もう一つ、恐らく次に述べる要因がなければN-BOXが販売を絶妙に落としてたとしても、まだまだスペーシアには抜かれてなかったはずです。

なにしろざっくり月単位で、多い時には1万台以上の販売数の差があった両車。23年3月の決算期はN-BOXが2万7811台で、スペーシアが1万3137台。その差は1万4000台以上という完璧なるダブルスコア。

そう、実のところ最大の要因は、昨年12月20日に発覚したダイハツ認証不正問題です。え? ダイハツの不正がなぜスズキの販売に影響を? と思うかもしれませんが、業界事情に詳しい人ならピンと来るはずです。