フランスが何としてもこの島を手放すまいと、独立の動きを必死で抑え込むのもそのためだろう。「フランス政府が暴動の激化に即座に対応したのは、この島のニッケル資源の戦略的重要性のためでもある」と、ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、カレン・ヘンドリックスは言う。
「ニッケルは現代の軍備とそれを支える経済を活気づけるために必要な戦略資源だ。19世紀もそうだったが環境に優しいエネルギー技術の台頭でさらにその重要性が増した」
21世紀の多くの地政学的リスクと同様、この島の将来にも中国の野望が影を落としている。今や世界一のEV生産国となった中国は近年この分野の振興のため、主要な鉱物のグローバルなサプライチェーンを支配下に置こうとしてきた。
ニッケルの確保では、世界の生産量の半分近くを占めるインドネシアに大きく依存しているが、その一方で地理的に高度な戦略的重要性を持ち、豊かな資源がある南太平洋の島々に影響力を拡大しようと着実に駒を進めてきた。
一方、フランス、さらにはヨーロッパはEV生産で中国に対抗。中国製の安価なEVが欧州市場にあふれる事態を何とか防ごうと必死だ。
マクロンが憲法改正手続きの延期を表明してまで住民の不満を抑え込み、ニューカレドニアの独立を阻止しようとしたのは「そのためでもある」と、ヘンドリックスは言う。
危機が産業を救う皮肉
暴動の数カ月前に世界のニッケル産業が苦境に陥っていたのは、部分的には中国の買い控えのせいでもある。今年1月、ニッケル価格は2020年9月以来の最低レベルまで下落した。中国のEV生産の大幅な減速がその一因だ。
ガードナーによると、中国は電池用ニッケルの世界の需要の80%超を占める。「昨年、電池と電池用原材料の中国の需要が伸び悩んだ」と、彼は説明する。「そのため電池用ニッケルの需給バランスは大きく崩れた」
ステレンレス鋼用のニッケルも供給過剰となり、生産コストが比較的低いインドネシアには勝てないとみて、スイスの資源大手グレンコアはフランス政府が補助金の増額を約束したにもかかわらず、ニューカレドニアのニッケル事業からの撤退を決めた。
「フランス政府は支援を提案してくれたがそれでも操業コストは抑えられず、現在のニッケル相場の非常に脆弱な状況では黒字転換は望めない」と、同社は声明を発表した。
だが暴動と政情不安で鉱山の閉鎖が相次げば、需給バランスはすぐにもひっくり返りかねないと、英調査機関のベンチマーク・ミネラル・インテリジェンスの主任アナリストであるウィリアム・タルボットはみる。
「ニューカレドニアのニッケル産業の規模はばかにならない。島の全ての鉱山が長期にわたり閉鎖したら、世界の需給バランスに実質的な影響が及ぶだろう」
皮肉にも、ニューカレドニアの危機による相場の混乱はニッケル産業を助けることになりそうだと、ヘンドリックスは予測する。「長期的には、価格の上昇は望ましい。この部門の多角化と、採掘・製錬への投資拡大を促すだろう」