夢を叶えたければまずは睡眠習慣を整える

日本に帰国してからは、とにかく寝る間を惜しんで描きまくりました。全力で打ち込めたのは、25歳までにイラストレーターとして大成できなければ諦めると決めていたからです。

2023年に開催されたMika Pikazo氏の個展「ILY GIRL」のメインビジュアル。鮮やかな色彩表現で世界中のファンを魅了している。

自分の中で25歳は、大学生が社会に出てひと通りのことを経験して大人になる年齢でした。逆に言うと、それまでは子どもの延長で、いろいろ挑戦して失敗できるし、反省して成長もできる。それが社会的に許されるうちに、そのとき自分が投げられるボールをすべて投げて、どう返ってくるのかを試したかった。何も返ってこなければ、自分はそこまで。25歳を超えても「いつかきっと自分には何かの力が宿って夢を叶えられる」と思い込むと怠惰な人生になりそうなので、区切りを設けてすべてを注ぎ込むことにしたわけです。

描くだけでなく、SNSでも積極的に発信しました。ただ、近年思うのが、SNSで良い評価を受けることだけが、表現の手段ではないということです。投稿した作品がバズるのは何かしらの共感を得た結果なので、悪いのではなく、素晴らしいことです。しかし、「これをやれば見てもらえる」を意識しすぎると、しだいに他の選択肢が怖くなって、省くようになります。見せ方がかたよれば、表現の幅も狭まるでしょう。自分はそういった偏った考えになっていると感じたとき、あえてまったく今まで投げたことのないボールを考えて、外に投げてみるようにしています。

大切なのは、みんなが何に共感を持ってくれたのか、そして自分が何をしたいのかを考えること。きっとそこには人間の根源的なものがあるはずです。流行りのツールは時代とともに変化しますが、根源的なものを掴んでいたら、ツールが変わってこれまでの見せ方が通用しなくなっても、きっと面白がってもらえます。また、それを時間が経ったあとに面白い形で再現することができると思います。

SNSで誰かの投稿や活躍を見て、「それに比べて自分はどうなんだろう」と不安になる人も多いと思います。さまざまなものを見て、今これが流行るのか、こんなアイデアがあるのかと刺激を受けることはあると思います。でも、SNSで流れてきた何かを見て「自分はダメだ」と自信をなくして動けなくなってしまうのはもったいないです。自信を失って行動しなくなったり、作るのが嫌になるくらいなら、見ないほうがいい。それよりも自分が気持ちよく取り組んだり、作ったりすることに時間を注ぎたいです。

私が大事にしているのは「自分の手が届かないような素晴らしいものを作っている人を見て、自分ができることを考え、思いついたことをやってみる」です。自分が作り続けることができるのは憧れる存在や、成し遂げたい目標が頑張らないと到底掴み取ることができないからです。もちろん、自分と近い人や自分がいる環境を見て不安になったり、比べてしまうこともあります。

でも比べるなら、自分から一見遠いところにいて、面白いことを実現している人がいいですね。たとえばイギリスのGorillazというバーチャルキャラクターのバンドが私は大好きで、キャラクターを使った実験的ライブ・映像作品に憧れています。日本では、KingGnuやMILLENNIUM PARADEのクリエイティブを手がけるPERIMETRONというクリエイティブチームは、既存の枠にとらわれずに格好良い創作に挑戦していてすごい。Perfumeなどの演出を手がけるライゾマティクスの真鍋大度だいとさんの作品は、あっと驚かせるようなテクノロジー技術に取り組まれていて、高校生のときから憧れです。作っているものの分野は違いますが、私ももっと表現の幅を広げていいんだと、強く勇気をもらっています。

実際、これからは今までの自分の表現だけにとどまらずに、頭に浮かんでいたけど作り方がわからなかったものにも挑戦したいですね。イラストに物語を加えてみたり、イラストを拡張して空間を作ったり。アニメーションMVも修業していつか手がけてみたいし、そこに実写を交ぜるのも面白い。アイデアはいろいろあります。

クリエイターとしての人生にゴールはなく、だからこそ自分自身に可能性が生まれます。ただ、その時々にチャンスに巡り合っても、体や頭がついてこないのはもったいない。クリエイターとして生きるためにも、これからも睡眠をとっていくこと、体を労ることを大事にしていきたいです。

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。

(構成=村上 敬 イラストレーション=Mika Pikazo)
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