任天堂の人気ゲーム『ファイアーエムブレム エンゲージ』のキャラクターデザインや「日清のどん兵衛」コラボCM、歌手Adoのファーストアルバム『狂言』の広告ビジュアルを担当。X(旧ツイッター)のフォロワー数は120万人を超え、今春には4回目となる個展を開催するなど、今もっとも勢いのあるイラストレーターMikaPikazo氏。彼女にこれまでのキャリアを紐解いてもらうと同時に、クリエイターとしてどのような睡眠習慣の遍歴を辿ってきたのかを語ってもらった。

睡眠を激変させたブラジル生活

クリエイターは創作に命をかけていて、寝る間も惜しんで没頭するというイメージを抱いている人は多いでしょう。でも、私は2年ほど前から夜中の2時に寝て朝9時に起きる、規則正しい生活を続けています。就寝時間こそ一般的なビジネスパーソンよりも遅めですが、毎日しっかり7時間睡眠です。

実は今の生活習慣に落ち着くまでには紆余曲折があります。中高生のときは深夜まで友達と遊び、絵を描く毎日。睡眠時間は短めで、毎朝、眠い目をこすりながら学校に通っていました。

その生活が劇的に変わったのは、高校卒業後、ブラジルに渡ってからです。ブラジルでは、アニメや漫画が好きな人向けの教室でイラストの描き方を教えながら、自分でもイラストを描いてSNSで発表していました。

日本にいた頃は夜遅くまでイラストを描いていたので、当初はブラジルでもそうしようと考えていました。でも、ブラジルには夕方になると台風のように激しい雨(スコール)の降る時期があります。私が住んでいたサンパウロ郊外は自然豊かな土地柄で、大雨になるとよく電信柱が倒れて、そのたびに停電になりました。停電になると夕方から辺り一帯は真っ暗で、パソコンの充電が切れて絵を描けません。

電気が点かないときはロウソクに火を灯し、その光源を頼りに紙とペンで絵を描く手段もあると思いますよね。しかし、夜に光を灯すと、その明かりに日本では見たことないような虫や動物が吸い寄せられてくるので、絵を描くどころではありません。そうなると、夜は寝てしまうのが一番。明け方には電気が復旧しているので、朝5時に起きてイラストを描く生活になりました。

朝型の生活習慣にシフトした際に、健康面で大きな変化がありました。以前よりも集中力が増したのです。日本とブラジルの時差は約12時間。日本でみんなが仕事や学校から帰ってきて、SNSを眺めてイラストを楽しむのが23〜24時だとすると、その時間帯はブラジルでは午前中にあたります。

本来であれば、午前中にイラストを制作して昼頃に作品を投稿したかったのですが、私が住んでいたところはネット回線が非常に弱く、イラストは到底アップロードできませんでした。そのため、イラストが完成したらバスで1時間かけて勤めていたイラスト教室まで行き、そこの回線でアップロードする必要があります。そうなってくると、朝9〜10時までには作品を仕上げて家を出発しないと間に合いません。

日本にいた頃は、時間を決めず気分に合わせて描いていました。気分が乗らなければ続きは明日にして、ほかのことをしてもいい。完全に自由です。でも、ブラジルからイラストを発信するとなると、日本のみんなに見てもらいたければ早朝に描くしかなかった。選択肢がなかったからこそ集中できたし、毎日継続できたのだと思います。

幸い、夜型から朝型への切り替えは苦ではなかったです。サンパウロ郊外に住んでいた頃は、ニワトリやガチョウを飼っていて、寝室の下に動物の小屋がありました。夜明けとともにどこかのニワトリが鳴き始めます。一羽が鳴くと共鳴して大合唱。目覚まし時計いらずで、嫌でも目が覚めました。

ニワトリ
写真=iStock.com/Motos e Paisagens
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