女性法律家の草分けとなった寅子(伊藤沙莉)を主人公に、女性差別や法制度の問題を丁寧かつ果敢に描き、高い評価を得た連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)。その脚本家であり、シナリオを電子書籍で発売している吉田恵里香さんは「この物語は憲法14条から始め、序盤は女性は大学に入れないなど、わかりやすい差別を描いた。その後は、法学部に女子生徒を入学させながら捨て石にした穂高教授など、わかりにくい差別を描くことに決めたが、難しい面が多々あった」という――。
連続テレビ小説「虎に翼」第14週より、主人公の寅子(中央・伊藤沙莉)と穂高教授(右・小林薫)
写真提供=NHK
連続テレビ小説「虎に翼」第14週より、主人公の寅子(中央・伊藤沙莉)と穂高教授(右・小林薫)
「虎に翼」の名セリフ① 第14週「女房百日 馬二十日?」より

穂高「ああああ、もう! 謝っても駄目、反省しても駄目、じゃあ私はどうすればいい?」
寅子「どうもできませんよ! 先生が女子部を作り、女性弁護士を誕生させた功績と同じように、女子部の我々に『報われなくても一滴の雨垂れでいろ』と強いて、その結果歴史にも記録にも残らない雨垂れを無数に生み出したことも! だから、私も先生には感謝しますが許さない。納得できない花束は渡さない! 『世の中そういうもの』に流されない。以上です!」

吉田恵里香『NHK連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ 第14週』(NHK出版e-book)

ファーストシーンに「法の平等」を掲げる憲法14条を出したワケ

「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

あまりにも有名なこの憲法第14条から連続テレビ小説「虎に翼」(NHK)の第1話をスタートした構成について、改めてお話ししたいと思います。

ドラマに限らず、映像作品のファーストシーンは、その作品の入り口であり、初対面の人に対する自己紹介的なシーンであるべきだと思っているんですね。そうした中、「虎に翼」では何から始めるのが良いか考えたとき、主人公である寅子(伊藤沙莉)が、戦後、日本国憲法の公布を知らせる新聞を河原で読んでいるシーンにしたいと思い、浮かんできたのが、この作品の最初から最後まで貫くテーマであり、誕生するまで、そして誕生してからも本当に平等が実現したのかを問う話でもある憲法第14条でした。

脚本家の吉田恵里香さん。紙の本特装版の『NHK連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ集』は10月の発売を前に予約で完売したほどの人気だ
脚本家の吉田恵里香さん。紙の本特装版の『NHK連続テレビ小説「虎に翼」シナリオ集』は10月の発売を前に予約で完売したほどの人気だ(撮影=プレジデントオンライン編集部)

構成の段階で第14条からの幕開けを考えていたのですが、硬すぎるのではという懸念もあり、制作統括の尾崎裕和さんに確認したところ、良いんじゃないかと採用していただけました。

視聴者の皆さんの中には「『虎に翼』は憲法第14条の物語だよね」と言ってくださる方もいらっしゃいます。女性初の弁護士のひとりであり、女性裁判官となった寅子自身、14条が掲げる「平等」について何度も傷を負いながら突き進んでいくので、主人公とも物語とも密着度が高い存在です。寅子の同級生である“よね”と轟の事務所の壁にも、この条文が書かれていましたね。また、物語にはいろんな人、いろんな差別が出てきますが、そもそも14条はこの国に住む人たちにとって自分の一部であり、切っても切れないものでもあるんですよね。