後半にかけて寅子が「自由」を守るために努力する姿を描いた

ちなみに、私が物語を描いていく中で14条と並んで好きになったのは、憲法第12条です。

「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」

国民は、自分たちが持つ権利と自由を侵害されないように「不断の努力」をしなければいけないという部分を知り、恥ずかしながら私は強く胸を打たれたんですね。憲法が個人の自由と権利を保障することは知っていたけれど、権利を保持するためには私たちが努力をし続けなければならないんだということが強く刺さりました。それで、後半にかけて寅子が不断の努力を続けるという物語をやってきたつもりです。

裁判になるのは実際の判例を基にした事件が多かった

構成では、憲法と実際にあった過去の事件の判例と、現代社会まで地続きになっている問題点を結びつけて描くことを意識しました。実は、当時の時代背景を基に完全にフィクションとして事件を創作するという案もあったのです。でも、細かい部分がぶれてしまったり、矛盾が通じたりするときに、実際の判例を参考にできるほうが良いだろうということになりました。穂高先生(小林薫)のモチーフになった方の著書にある民法のお話やその判例などは私も興味深く読みましたし、チーフ演出の梛川善郎さんも面白いと思う判例をピックアップしてくださっていました。

ドラマはチームで作るものなので、演出家と脚本家がどちらも面白いと思うものがベスト。実際の判例で合致した中から選んでストーリーにはめていく作業でした。全体の軸になるストーリーと構成はおおまかにできていたので、それに合う事件を探すという進め方ですね。

ストーリーは「ここで女子部は終わり」「ここでは梅子の背景を描く」などと、人間ドラマでやりたいことベースで決め、そこに合う事件の判例を入れなきゃいけない。いろんな差別や偏見――寅子が明律大の女子部に入らなかったら知らなかった人たちや、知らなかった価値観・考え方を学んでいくことが、寅子の糧になる。その過程を見せられたら良いなと思いました。