契機になったふたつの天災

筆者はこれまでも仕事用バッグの選び方について消費者に聞いてきた。その声も紹介しよう。

「常にノートパソコン(PC)を持ち歩くようになり、収納量が大きいリュックにしました。また、PCが雨でぬれると心配なので防水機能のバッグを探すようになりました」(30代の男性)

コロナ禍の在宅勤務+時々出勤で、女性も含めてPC持ち運びが増えた一面も大きいようだ。

そもそもスーツにリュックが最初に注目されたのは、東日本大震災(2011年)以降だ。当日は震災の影響で交通機関がストップし、多くの人が会社から徒歩で帰宅した。

手提げバッグが主流だったが、手提げ、肩掛け、背負いを備えた3wayタイプのバッグに乗り換える人が増加した。

スーツにリュックが流行った背景を話す吉田カバンの広報チーム

服装のカジュアル化という面ではクールビズ(2005年に提唱)からだが、2020年以降のコロナ禍でリモートワークが進み、スーツにネクタイ姿で働く機会が減ったことで、さらに進んだ。カジュアルな服装にリュックは馴染みやすく、よりビジネスマンのリュック使用が進んだと考えられる。

さらにPCを常時持ち歩くことが当然となったことや、仕事終わりにジムに通う人が増えたこともある。仕事に必要なPCや資料以外に、トレーニングウェアや靴を入れられる大容量のバッグが求められるようになった。

電車内で前に抱えても迷惑にならない工夫

吉田カバンは、消費者に選ばれるリュックの変化も指摘する。

「コロナ以前なら、リュックの形がスクエア(角が四角)を選ぶ人も多かったです。それがスーツを含めて服装のカジュアル化が進み、最近はラウンド(丸い)タイプが好まれます。お客さまの多くは『オン・オフ両方で使えるものがいい』と話されます。ノートパソコンのサイズは13インチから16インチが主流となり、バッグに2台のPCを入れる方もおられるので、容量が大きいものが人気です」(名倉さん)

ここからは同社の売れ筋商品も紹介しながら、機能性を考えたい。

「『スーツでリュック』が浸透してきましたが、『ヒールでリュック』も顕著です。たとえば、女性の方には『ポーター シア』のデイパック(4万5100円、価格は税込み、以下同)が好まれます。軽量でさりげない光沢がある生地を使い、持ちやすいサイズバランスに仕上げました。ファスナーがゴールドなのも人気で、ネイルや長い爪でも使いやすいよう、長さのある革引き手を採用しています」(同)

プレジデントオンライン編集部撮影
『ポーター シア』のデイパック。画像ではわかりづらいが、ファスナーの取っ手部分はネイルをしていてもつかみやすいように、形が工夫されている。

今回、現物を提示してもらいながら話を聞いたが、多くのリュックはサイズ感にこだわるのも興味深かった。「電車内でリュックを前に抱えている状態でも、座って膝にリュックをのせた状態でも周囲の乗客にストレスにならないよう、肩幅以内の大きさにしています」(同)

プレジデントオンライン編集部撮影
『ポーター リフト』のデイパックの横幅は、肩幅より小さくつくられている。だから電車の中でも周りの邪魔になりにくい。

また、リュックを背負った状態だけでなく、前掛けにした状態での利便性も大切にしているそうだ。2021年8月に発売した「ポーター ロード」(デイパックは6万3800円)では、スマホやICカード、ワイヤレスイヤホンなどがショルダーストラップに収納できて、背負ったままでも前に抱えていても出し入れできる。