拘留日本人への無関心と冷たい対応

こうした事情を丹念に見てくると、今の外務省が中国国内においてスパイ容疑で次々に拘束されてきた同胞の解放に向けて、十分な努力を払っているようには到底見られないことも不思議ではなかろう。

国家として極めて深刻な問題である。中国での国家安全法の施行を受けて、既にメディアで確認されているだけで17人もの日本人がスパイ容疑で拘留されてきており、数年間にわたって日本では到底許されないような非人道的な状況で取り調べ、抑留を受けている例が続発しているのだ。

国民の生命、身体、財産を守ることが国家の役割である以上、外交当局はもちろん関係部局が力を結集して取り組まなければならない問題のはずである。しかし、この面での外務省の感度と動きは全くもって低く鈍いと言って過言ではないだろう。

私が在勤していた豪州でも、中国当局に拘束されてきた自国民の解放は大きな課題となってきた。そして、豪州政府による粘り強い働きかけを経て、2023年11月のアルバニージー首相の中国訪問に先立ち、拘留されてきた女性ジャーナリスト1名の解放についに成功したのである。解放に至るまでの豪州メディアの執拗な問題提起とも相まって、鮮明な印象を受けたものである。

「拉致問題」と同じ過ちを繰り返すのか

翻って、日本の場合は、この問題が一部メディアで漸く大きく取り上げられるようになったとはいえ、日中関係の一大懸案であるとの国内コンセンサスづくりに向けて外交当局が動き、そうした動きを通じて中国側に効果的なプレッシャーをかけているようには見受けられない。

またしても、腰が引けているのだ。2023年11月末、離任間際の垂駐中国大使が拘留されていた製薬会社アステラス社社員の日本人と初めて面会したことは一歩前進だ。しかしながら、もっと親身になって窮状にある日本人に行き届いた支援の手を差し伸べていくべきこと、そして中国政府に対して解放を強力に働きかけていくべきことは言を俟たない。

写真=時事通信フォト
離任記者会見に臨む垂秀夫駐中国大使。2023年11月末、拘留されていた製薬会社アステラス社社員の日本人と初めて面会した

むしろ、被拘留者の公安調査庁とのつながり等を指摘し、「やり方がまずかった」などとぼやく向きが目立つ。これでは明確かつ具体的な嫌疑を示されることなく拘留されている方々は堪らないだろう。外務省は、北朝鮮による拉致被害者の窮状に対して長年冷淡であったと批判されてきた過去がある。またしても同じ過ちを繰り返すのだろうか。