北方領土問題を解消するにはどうすればいいのか。ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一さんは「ロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻の長期化で孤立化している。このタイミングで話を持ちかければ、高い確率で乗ってくるはずだ」という――。(第3回)

※本稿は、大前研一『世界の潮流2024–25』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

ロシアと日本と北方四島
写真=iStock.com/Belus
※写真はイメージです

今こそロシアと平和条約を結ぶべき理由

読者の方々は奇異に思われるかもしれないが、日本が2024年中にやるべきことは、ロシアとの関係を正常化することだ。

過去に安倍晋三首相(当時)がウラジーミル・プーチン大統領と26回会談してもうまくいかなかったが、日本は基本的にロシアとの間に平和条約を結ぶべきである。今このタイミングで話をもちかければ、プーチン氏は高い確率で乗ってくるだろう。

理由は2つある。1つは、現在のプーチン氏はウクライナ侵攻の長期化で極めて孤独な状況に追い込まれていること。もう1つは、プーチン氏以上に日本のことを理解しているロシアの政治家はいないからだ。

実際、プーチン氏は国際柔道連盟から8段を授与されるほどの柔道好きであるほか、出身地のサンクトペテルブルクを訪れた際は必ず現地の日本食レストラン「桜」と「将軍」に行くほどの親日家だ。そのプーチン氏が大統領でいる間にロシアと平和条約を結ぶのである。

北方領土問題はどうすればいいのか

では、日ロ間で最大の懸案事項である「北方領土問題」についてどうすべきか。

第二次世界大戦の戦勝国である旧ソ連は、大戦中に北海道の南北分割統治をアメリカに打診したが、ベルリン分割で懲りていたアメリカはこれを拒否し、その代わりに南クリル諸島(国後、択捉、歯舞、色丹)の割譲を提案した。日本の外務省はそうした歴史的経緯を無視して、「北方領土は旧ソ連が不法に占拠したものである」とウソの主張を繰り返してきた。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はこれに反発し、「『北方領土』という表現をやめろ。ロシアの正式な領土であることを認めたうえでなければ返還交渉はできない」と言っている。

一方で、極東ロシアのハバロフスクを中心とした沿海州の経済開発は期待が持てるし、ロシアは道路などのインフラの老朽化がひどいため、日本企業が貢献できる余地は大いにある。

ロシアで人気の車はランサーとパジェロだが、どこへ行っても道路が荒れていて“パリ・ダカール・ラリー状態”だ。このように日本ができることは山のようにあるのだが、現在はウクライナ侵攻による経済制裁を受けて、日ロ間の経済交流は進まず、ロシアは北朝鮮から労働省を呼んで、シベリア開発をやっているほどだ。

北方領土の返還は、日ロ間の経済的な協力関係をある程度築いた後に進めるべき話であり、性急に進めるべきではないだろう。すでに北方4島には旧ソ連が送り込んだロシア人が大勢住んでおり、そのまま返還されてしまえば、日本はバルト三国やパレスチナと同じ入植地問題を火種として抱えることにもなる。