チャイナスクールだけではない「弱腰外交の原因」

幸い、前記のような逸話に事欠かないチャイナスクールも、中国の戦狼外交の本格的な展開を受けて随分と変わってきたことは確かだろう。むろん、表立って批判する人間に対して人格攻撃を含めて徹底的につぶしにかかってくる中国共産党の性癖を熟知しているからだろうか、公の場で中国に対して批判的な発言をすることに極めて慎重な傾向は今なお変わらない。ただし、敢えて弁護すれば、こうした傾向は、日本外務省のチャイナスクールだけでなく、米、英、豪等、我が国と基本的価値や戦略的利益を共有するパートナー国でも似たり寄ったりだ。

だが、ここで指摘すべき深刻な問題は、中国に対する弱腰外交の原因がチャイナスクールだけにとどまらないことである。すなわち、チャイナスクールだけを責めてこと足れり、とはできないのだ。むしろ、チャイナスクールの面々が漸く目覚めて、是々非々で諸懸案に対処していこうという機運が強化されつつある時に、チャイナスクール以外のところで瓦解が生じているのだ。

与那国島近くの海域にミサイルが撃ち込まれた

2022年8月のことだ。

米国下院議長(当時)のナンシー・ペロシの台湾訪問に怒った中国は、台湾を取り囲む海域で激しい軍事演習を行った。それだけでなく、その一環として日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイルを五発も撃ち込んできた。ミサイルが撃ち込まれたのは、我が国最西端の与那国島から僅か80キロメートルほどの海域だった。まさに日本の安全保障に対する脅威そのものであり、周辺住民や漁民にとって危険極まりない行為だった。

与那国島にある日本最西端の碑(写真=松岡明芳/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

北朝鮮のミサイルが日本の水域に撃ち込まれることはあっても、中国のミサイルが撃ち込まれたのは初めてだ。明らかに、戦略的に新たな挑戦の歩を進めてきたのだ。だからこそ、日本としては毅然と厳しく対応し、二度とこのような行為をさせない必要があった。

中国のミサイル発射から遡ること8カ月、生前の安倍元首相は2021年12月に台湾の国策研究院主催のシンポジウムで「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と述べた。これに対し、中国は激しく反発した。在中国日本国大使(当時)の垂秀夫は中国外交部(外務省)に深夜に呼びつけられ、「極めて誤った言論で中国の内政に乱暴に介入した」と厳重な抗議を受けた。