「まず相手が何を望んでいるか考えて実行することです。でも多くの方がそれをやらない。挨拶1つしない方が多いです。だから気配りの第一歩は丁寧で誠実な挨拶をして、お会いできてうれしいという気持ちを伝えることから始めてはどうでしょう。挨拶をするとき、相手が喜ぶ話題を振ったほうがいいといった営業スキルのようなものは確かにありますが、それ以前の部分にきちんと取り組むほうが大切だと思うんです」

第一歩を踏み出した後、さらに力をつけるためには、「若い方なら本を読み、人と会って、自分を磨くことをおすすめします。本当の気配りは人間性からにじみ出てくるものだから」。

そうアドバイスを受けてもなかなか実行に移せない人がいるかもしれない。1日100軒の顧客の家を回った林さんは、なぜそのような行動力を身につけることができたのだろうか。

「無理に人に会うという姿勢では苦しいだけだと思います。お互いの出会いを享受するというか、出会いを楽しむという姿勢で臨めるといいですね。周囲の人に対して心を配るというのは本当はとても楽しいことです。だから相手の方に喜んでもらったら、喜んでもらえたことをうんとかみしめていただきたい。よかった、よかった、今日、喜んでもらえたと反芻してください。それがとても大事です。相手のために一方的に尽くしても続きません。双方が幸せになることが必要です。そこで私は『おもてなし』の気持ちが大切だと思うのです」

2009年9月1日、横浜市役所に初登庁した新市長は「おもてなしの精神で行政サービスを行っていきたい」と、やや緊張した面持ちで抱負を語った。1年が経過した今、市役所におもてなし精神が浸透してきた。

「お稽古事は、いくら練習してもなかなかできない時期があります。ですが、もうだめだと思っても練習を続けていると、ある日、ポンとできてしまう。それとよく似ていて、1年が経って氷解するように、フッと職員の皆さんの心が開いてくれました。市民の皆さんからは市役所の空気が変わったという声をいただきました」

気配りの気持ちは、人々の心を動かす力を持っている。

※すべて雑誌掲載当時

(大沢尚芳=撮影)
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