過度な「候補者調整」はやめるべき

筆者が気になったのは、同じ4月30日の岡田克也幹事長の記者会見だ。補選の勝利を受け、今後の候補者擁立方針を問われた岡田氏は「『数字先にありき』ではない」と述べ、擁立作業を急ぐことにやや慎重な姿勢を示した。

理由は以下の2点だ。①勝てない候補者を数多く立てればいいわけではない、②他の野党とバッティングする――。①はその通りで、質の高い候補をそろえることは、党への信頼を高めるためにもこれから一層重要になる。

気がかりなのは②だ。立憲は他党との調整を意識するあまり、自前の候補者擁立を手控えなければならない、という呪縛にとらわれてはいないだろうか。

一本化は死活的に重要だ。だが、衆院解散の足音が近づくなか、それを意識するあまり候補擁立が遅れることの方が、はるかに死活的な問題になりつつある。

立憲以外の野党支持者には納得しがたいだろうが、野党がこの先「小選挙区で勝つ」なら、可能な限り第1党である立憲の公認候補を前面に出すことが望ましい。

政権批判層や「非自民」志向の無党派層は、選挙区に野党第1党の立憲がいなければ、次善の策として第2党の日本維新の会への投票を試みるだろう。筆者はたびたび立憲と維新の「目指す社会像が違う」ことを指摘してきたが、無党派層にそのことが十分に浸透しているとは言い難いからだ。

小選挙区は立憲、比例は他の野党で戦えばいい

立憲が擁立を見送った選挙区に維新が候補を擁立すれば、維新が非自民票をかっさらう可能性がある。昨年の衆参補欠選挙は「立憲が全敗、維新が自民から金星を挙げた」と評されたが、維新が勝った衆院和歌山1区補選に、立憲は公認候補を立てていなかった。

維新は近畿以外で地方組織の力が十分でなく、メディアに露出する「空中戦」で比例票を稼ぐ戦いに頼りがちだ。だが、立憲が過度に候補擁立を見送れば、維新は立憲のいない小選挙区で勝利を重ねるかもしれない。今回の補選で獲得しつつある「自民vs立憲による『目指す社会像』の選択」の構図が再び崩れ、振り出しに戻る可能性がある。

メディアは「維新を含めた野党候補の一本化」を盛んに求めているが、一方で次期衆院選で自民党が大敗した時に「維新が連立政権に加わる可能性」にも言及している。選挙後に自民党政権の補完勢力になるかもしれない候補が、野党支持の票をかき集めることを、野党第1党が簡単に認められるわけはない。維新の動向には今後も注意を払う必要はあるが、現時点で立憲が、維新の議席を大きく増やすことにつながる戦術を安易にとることは極めて困難である。

野党陣営は補選を機に頭を切り替え、小選挙区では立憲の旗を前面に出して戦うべきだ。他の野党は比例代表で確実に議席を増やし、立憲が自分たちの望む方向を外れてしまわないよう、政策面で圧力をかける力を強めればいい。

くどいようだが、小選挙区制とはそういう制度なのだ。