かしずくような企業の姿勢がクレーマーを生み出してきた
オルテガは、このような大衆の振る舞いをたとえて「甘やかされた子供」と名付けています。なぜ、大衆は「甘やかされる」のか? オルテガは「甘やかされた子供」が生まれる理由として「文明がこの世界で作り上げた安逸な生活」を挙げています。
市場経済において勝者となることを目指す企業が、顧客の要求や欲求を絶対視し、これに対してアファーマティブに対応することを続けているうちに、顧客はまるで王侯貴族のように「自分たちの要求や欲求は常に満たされて当然だ」と考えるようになります。オルテガが指摘する「大衆」の自己中心的な性質は、このようにして形成されていくことになります。
昨今では、横暴な顧客による理不尽な要求やクレームによって従業員が精神的・肉体的に傷つけられる、いわゆるカスタマー・ハラスメントが世界的に問題になっていますが、こういった「甘やかされた子供」のような傍若無人な顧客は、是非の判断もなく、長いあいだにわたって顧客の要求にかしずくようにして応え続けてきたアファーマティブ・ビジネスによって生み出されている、と考えられます。
無教養な要求に応え続ける限り、温暖化は解決しない
ここでポイントになるのが、オルテガの言う「大衆」はまるで王侯貴族のように振る舞うわけですが、彼らは「振る舞い」が王侯貴族に似ているだけで、その背後には何もない……つまり王侯貴族が持っている教養も審美眼も倫理観も持っていない、という点です。
ノブレス・オブリージュという言葉があります。フランス語で「高貴な地位にあるものの義務」を意味する成句です。高貴な立場にあるものは、その立場によって得られる恩恵や権利と引き換えに、社会的な義務や責任も負わなければならない。そのような矜持がこの言葉には込められているわけですが、「甘やかされた子供」である大衆にはこれがないのです。
そのような無教養で美意識のない大衆からの要求・欲求に無限に応えることによってしか、市場で勝ち残ることができないのであるとすれば、世界の辿り着く先はディストピアでしかありません。
地球環境や気候変動の観点から見れば、大衆の即座の欲望の追求は持続不可能であり、さらには地球の生態系や我々の未来に対する深刻な脅威となっています。オルテガが指摘したように、大衆の無教養な要求に応えることが、結果的に私たちの持続可能な未来を犠牲にしているのです。