各業界に固有のカスハラとは? その対応策を企業法務が専門の弁護士・香川希理氏が解説する。
土下座
写真=iStock.com/Tomwang112
※写真はイメージです

情緒的になりやすく、慰謝料請求も当たり前 冠婚葬祭業界

特徴

慶事・弔事とも人生の節目となる大切なイベントであり、本人やその家族が情緒的になりやすい。とりわけ結婚式は一生に一度の晴れ舞台という感覚が強く、運営側への期待値も非常に高いため、トラブルに対して強いクレームが発生しやすい。

葬儀でよく起きるのは名前の間違い。挨拶状や御礼状の名前違いや司会の言い間違い、中には位牌の名前を書き間違えたケースも。故人の宗派に沿った作法での見送りができなかったことで、慰謝料を請求された例もある。関係者はデリケートな精神状態にあるうえ、「やり直し」による挽回が基本的に不可能であることも、顧客からの要求が過剰になりやすい要因である。

対応策

「被害、つまりは慰謝料請求への対応が基本となります。とりわけ葬祭業界は、他の業界に比べて慰謝料請求をされやすく、過去の判例等をみてもそれが認められやすい傾向にあります。

名前などの間違いに関しては、御礼状を改めて出し直す、お詫びとしてさらに葬儀費の一部を割り引くといった対応が考えられます。一方で、葬儀費の全額を返金せよといった要求は明らかに不当であり、応じる必要はありません」(香川氏)

利用者だけでなく親族からのクレームも多い 介護業界

特徴

身体的な接触を伴う場面が多く、利用者からの暴言・暴力やセクハラが発生するリスクが高い。利用者の精神疾患や認知症などで対応が困難なケースや、家族・親族からのクレームやハラスメント事案も少なくない。介護サービスの特性から、カスハラが発生しても簡単にサービスの提供を打ち切れず、トラブルが長期化しやすい。

対応策

「組織としての体制整備が重要です。トラブル発生時には介護記録やケアマネージャー、関係行政機関などから情報収集を行い、サービス提供者に落ち度がなかったかを確認。落ち度があった場合はその点を真摯に謝罪したうえで、それでも暴言や暴力が続く場合は、それがカスハラにあたることをケアマネージャーや行政機関から指摘・指導してもらうのが一つの対処法です。サービス提供側に落ち度がない場合も、受けたカスハラ行為について、日時・内容などの記録をきちんと残しておくことが重要です。

あれこれ手を打ってもカスハラが止まらない場合は、やむをえず介護サービスの契約を停止することになりますが、その際にも記録は大切です。可能であれば暴言などは録音もしておきましょう」(同)