ファンタジーと現実の狭間で忍術を極める
武神館宗家の初見氏が「戸隠流忍法34代目宗家」の肩書のまま、主人公ジライヤの養父として出演し、ドラマの武芸考証も行った本作は、本物の忍者の技やアクションが見れるということもあり当時ブラジルで大きなブームを起こした。パンデミック中に地上波で再放送されるとその人気は再燃し、日本以上に高く、長い人気を誇っている。
フェルナンドさんの道場は、ドラマに出演した忍者が運営する武神館の支部とあって、トーレスさんのように少年時代に釘付けにされたジライヤの勇姿に憧れて、サンパウロの道場に入門した者は多い。
道場の受付にはジライヤのフィギュアが飾られており、日本のポップカルチャーは大歓迎のようだ。時には一般ウケのよい忍者ショーをイベントで披露するなど、率先してファンタジーとしての忍者の魅力や楽しさを取り入れている。
忍術を楽しみつつ極めるという姿勢もまた師から学んだ。
「初見宗家は書や絵画もたしなみ、演劇、映画にも造詣が深いアーティストで、人生を楽しむことを大切にされています。初見宗家のような比類のない武人がストイックにならずに、人生を楽しむ姿にこそ、私は最も大きな感銘を受けました」と初見氏の魅力について語り始めるとフェルナンド師範の話は止まらない。
「忍術」を学ぶブラジルならではの事情
「日本文化に惹かれて」とは別の現実的な目的で入門する人もいる。
入門9年目のマルシオ・ルイス・パッソス・チベリオさん(54)はブラジルの陸軍大佐という正真正銘の軍人だ。
「日常でありうる突然の襲撃に備えるために総合的な格闘技を学びたくて入門しました。肉体や技術面とともに精神的に成長するのが武神館に通う私の目的です」
また女性の門下生の中には、「護身術」として忍術を学ぶ人も少なくない。
2023年度のサンパウロ市内の殺人件数は481件と、人口当たりの発生件数は東京の約8倍。報告のあった強盗被害は13万3324件を計上している。年々減少しているとはいえ、治安は日本に遠く及ばない。
筆者が生活していても、この街では赤信号でもオートバイが突っ込んでくることはざらだし、路上での強盗やひったくりも多い。