「水遁の術」や「木の葉隠れ」は扱わない
道場ではどのような指導が行われているのか。
稽古は皆が正座して正面へ一礼してから始まる。フェルナンド師範は時折、二人一組の門下生の練習を止めて技の見本を演じて見せた。殴りかかろうとする相手を掴んで倒してから、次の一手、さらなる一手と、加減しながらも急所を攻め続け、相手を無力化する。フェルナンドさんはあっという間に2人の門下生を制圧してみせた。技の連続は見ているだけで痛さが伝わり、スポーツ化した柔道や空手とは異なる実践的な迫力があった。
フェルナンドさんほどの腕前ともなれば、複数の相手を無力化するなど朝飯前のようだ。
忍術のなかでも道場で教えるのは体術と、武器を使用する棒術、剣術などの格闘技だ。忍者と聞いて誰もがイメージする水遁の術や木の葉隠れなどは教えていないそうで、手裏剣投げも賃貸物件である道場を損なう恐れから、時折行う野外の特訓で扱うという。筆者にとっては、忍術の範疇の広さを知ることとなった。
ドラマやアニメに親しみつつ忍術を探求
そんな格闘技中心の忍術を学ぶのはどんな人なのだろうか。
道場に通って9年目となるソフトウェア・エンジニアのペドロ・エンリケ・スザーノ・トーレスさん(37)は子ども時代に夢中になった特撮ヒーロードラマ「世界忍者戦ジライヤ」が門をたたいたきっかけだ。
「当時地元には格闘技の道場がなかったんです。大人になってからサンパウロに出て仕事するなかで、フェルナンド師範の道場を見つけ、子供の頃からずっと憧れていた忍術を始めることにしたんです」
その日の稽古の終わりにフェルナンド師範が「『忍びの家』を見た人は?」と門下生に問うと、ほぼ全員が手を挙げた。
「しばらく忍者ものの新しいシリーズがなかったこともあって、みんな「忍びの家」に熱中したようです。私も妻と一緒にドラマを見ましたがとても面白かった」と稽古後に笑顔をこぼした。
「忍びの家」に惹かれて道場見学に訪れた人はまだない。しかし、過去のドラマやアニメに触発されて道場生となったものは少なくない。
なかでもブラジルで1989年に放送開始された特撮テレビドラマ「世界忍者戦ジライヤ」の影響は絶大だ。