キャラクターが豊富な伊藤家
沙莉からはナチュラルボーンな、生まれながらのしょっぱさも感じる。その源は伊藤家にあるようだ。
手厳しいダメ出しと差別やいじめを許さない公平さをもつ姉、素っ頓狂だが限りなく熱い人情派の兄(お笑いコンビのオズワルド・伊藤俊介)、働き者の塗装職人で話し方は倒置法の母、沙莉を溺愛してなかば生きがいになっていた伯母。
それぞれへの思いは著書に丁寧に綴ってあるのだが、家族を客観的にとらえている文言が心地よい。オブラートに包むような言葉はなく、しっかりしょっぱい。だからこそ家族全員と真剣に向き合って、感謝している様子が伝わってくる。
もちろん自虐と自分ツッコミも忘れない。天性のツッコミ英才教育を受けた兄と沙莉が芸能界で活躍しているのも、自然の摂理だと思った(ま、幼少期からジム・キャリーがマイフェイバリットヒーロー、と言う時点で目指すところは明白なのだが)。
沙莉は著書でもトーク番組でも、父についてはコミカルな表現で語っている。
「生い立ち的に父との思い出はそんなに多くはない。父は常に『逃走中』だったからだ。特番みたいな楽しいもんじゃない。シンプルにガチなハンターから逃げていた」(前掲書)
常に「逃走中」だった父との関係
このほかにも「伊藤家から脱退」「やらかしてとんだ」など、父が借金で蒸発した悲劇を喜劇に転換して表現。その父は数年前に他界。あとがきではこう綴った。
「チョロチョロと出てきてもほとんど語っていない父に関しては、どうしようもない人だったけど、とにかく良い奴だったし、兄同様、どうしたって大好きだったので。それはそれでそのくらいの情報で勘弁してやろうという感じです」(前掲書)
適度に突き放しつつも、ほんのりと温もりを感じる。複雑な思いもあっただろうに。ふと思い出したのは沙莉が年配男性との共演で絶妙な塩対応を魅せたことだ。
志村けんのコント番組「となりのシムラ5」(2016年・NHK)では、志村が演じる「年齢確認にブチ切れる」おじさんを慇懃無礼にしれっといなすコンビニ店員役、そして志村の娘役をこなした。アフロで身長195cmの外国人の恋人(副島淳)を家に連れてくる娘ね。
これが好評だったか、その後「スペシャルコント 志村けんin探偵佐平60歳」(2018年・NHK)にも出演。志村演じるうだつのあがらない探偵を塩対応で支える助手・梅谷桃世役だ。思いっきり頭をはたかれる昭和コントの因習に対しても小さく刃向かうフリをするなど、独自の対応が印象的だった。