新たなる市場の開拓も簡単ではない

新たなる市場として、男性化粧品市場は拡大傾向にあるが、アラミス、クリニークなど欧米高級ブランドが先行する市場でもあり、キャッチアップできていない。

2024年4月には、資生堂は、美容や健康の改善をサプリや食品などで得る「インナーケア」事業の新ブランド、「SHISEIDO BEAUTY WELLNESS」を立ち上げた。カゴメと協働した飲料「ROOTINA(ルーティナ)」、ツムラと協働したサプリ「TUNE BEAUTE(チューンボーテ)」を販売するものの、こちらも国内においては、ファンケルやDHCなど既にプレゼンスを確保している競合先もあり簡単ではない市場だ。

写真=iStock.com/Yana Tatevosian
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働きやすい職場に「安住」していなかったか

最後にもう一つ気になる点がある。資生堂といえば、女性活用や働きやすい職場としても常に先端を行く企業だ。もっとも、社員に優しく居心地のいい環境が、大胆な変革や改革を停滞させ、仕事の既得権益化や細分化を生んだことが、①中国傾斜②EC遅れ③ブランド乱立を招いた側面はないだろうか。もしも、働きやすい職場に「安住」したことが、結果的に、減収減益や、早期退職募集の遠因となっているとしたら、由々しき事態だ。

当たり前だが、資生堂に限らず、ダイバーシティや働き方が尊重される令和の時代、女性にも男性にも優しく、人事制度や福利厚生が充実した働きやすい職場環境の向上に努めるのは、企業の責務である。一方で、営利企業として、社会や顧客の変化を捉えながらの社内競争や実力主義、コスト意識や採算性の確保といった点が、働く環境の前提にないと、ただおしゃれで居心地がいい職場になってしなうのではないだろうか。

高い技術力と豊富な人材を誇る名門ブランド企業の資生堂。①中国傾斜②EC遅れ③ブランド乱立、という3つの難題をいかに迅速かつ大胆に解決するのか。

これら問題の対応に、資生堂が先陣を切って成功すれば、同じように優良ブランドを抱えるものの、今一つ生かし切れていない他の日本企業にとっても好事例となり得よう。長期政権やガバナンスへの批判も社内外で燻り始めるなか、資生堂経営陣のさらなる大胆な決断が必要とされている。

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