「ネット上でどこでも買える」を解禁するか

実際、自社による公式ECサイト「watashi+(ワタシプラス)」では全品送料無料やポイントサービスもあり、アクセスしてみるとかなり充実した構成ではあるが、「知らなかった」「使ったことはない」という声も多く認知度は低い。

また、資生堂が誇る最高級ブランドの「クレ・ド・ポー ボーテ」は、EC販売チャネルを限定しているとはいえ、化粧品専門店や百貨店のECサイト、イオンスタイルなど複数のサイトからネット購入が可能だ。

既に資生堂が認定するオンラインショップは186(2024年4月30日時点)に上るが、この先、さらに拡大して「ネット上でどこでも買える」ようにするのか、逆に、限られた公式ECでしか購入できない形とするのか、取り扱いブランドごとに対応は変えるのか、など課題は山積だ。

いずれにせよ、公式サイトがいくつか乱立する現在のECサイトは認知度も低く分かりにくい。長年二人三脚でやってきた化粧品専門店などからは、資生堂によるECサイトにより顧客を奪われるとの不満が燻っている。「ネット上でどこでも買える」資生堂となることで、顧客の利便性は高まるものの、ブランド価値の毀損につながる危険性もはらむ。

スマホを通り過ぎているネオンランプで光るショッピングカート
写真=iStock.com/AntonioSolano
※写真はイメージです

顧客の奪い合いを招きかねないブランドの多さ

③ 32もあるブランド群

名門ブランド「資生堂」低迷の根本的な問題の3つ目は、ブランドの乱立だ。

クレ・ド・ポー ボーテ ル・セラム
クレ・ド・ポー ボーテ ル・セラム(画像=プレスリリースより)

資生堂では、大きく「プレステージ」と「プレミアム」という2つのブランド群に分けられており、①「プレステージ」とされる高級ブランドには、SHISEIDO(シセイドウ)、Clé de Peau Beauté(クレ・ド・ポー ボーテ)、NARS(ナーズ)、IPSA(イプサ)、Drunk Elephant(ドランク エレファント)など16ブランドが名を連ねる。例えば、「Clé de Peau Beauté(クレ・ド・ポー ボーテ)」の美容液「セラムエクラS」が40ミリリットルで税込3万6300円、美容クリーム「ラ・クレーム」が30グラムで同6万8200円といった高額商品がそろう。

②「プレミアム」とされる中高価格帯ブランドには、ANESSA(アネッサ)、ELIXIR(エリクシール)、HAKU(ハク)、MAQuillAGE(マキアージュ)など13ブランドがある。

その他3ブランドとあわせ、実に合計32もの自社ブランドを抱えており、おのおのが美容液や美容クリームをはじめ多種多様な化粧品や関連商品を取りそろえている。

いまや、社員であってもブランド商品群の全てや相関関係を的確に把握できる者はほとんどいないのではないだろうか。新製品・新ブランドの乱発による開発費や販売費用の負担、商品ターゲット重複による顧客の奪い合いなどを招くことになる。