笹生優花と西郷真央が「ギリギリ合格」というハイレベル
ところが、最終日となる4日目。経験したことのない緊張と不安が幡野を襲う。特に、手が震えてパッティングが全く打てなくなってしまった。自分でも何が起きているのかわからないほど混乱し、「79」と大きくスコアを崩してしまった。
幡野の不運は2つある。
ひとつはこの年、制度変更によってレギュレーションが変わる初めてのプロテストだったということ。次の年からは、原則的にプロテスト合格者しかツアーに参戦できなくなるため、合格しなければツアープロとして活動する権利を失うことになる。
特に過去2年間ツアー参戦していた幡野のような選手にとっては、職を失うかもしれないプレッシャーは小さくなかったろう。
もうひとつは、この年のプロテストが近年でも例を見ないほど、有力選手が揃った過酷なものだったことだ。
合格した選手の中には、現在、2年連続賞金女王の山下美夢有をはじめ、吉田優利、西村優菜、安田祐香、セキ・ユウティンとトップクラスの選手が集まっていた。2021年の全米女子オープンに優勝した笹生優花と、現在すでにレギュラーツアーで6勝している実力者、西郷真央の2人は、合格ラインの18位タイで合格。どこかで1打落としていれば不合格になっていたのだ。
最も合格に近づいた年が、歴史上、最も熾烈なプロテストだった。こうした経験を重ねていくことで、幡野は勢いでプレーできていた以前とは異なり、少しずつゴルフの怖さを知るようになったという。
三觜喜一プロに教えを請うようになる
現在の女子選手たちの大半は、スイングをチェックしたり、コース攻略などをアドバイスするコーチと契約している。結果を出せるコーチには、より多くの選手が師事を仰ぎ、中にはプロと同等以上に注目を集めるコーチもいる。
幡野はそのスイングコーチを頻繁に代えている選手として、知られている。
もともと幡野は、日本におけるプロコーチの第一人者のひとりである井上透プロの指導を受けていた。件のホールインワンに象徴されるように、幡野のキャリアの序章は上々の滑り出しと言えた。QTを突破し、ツアーに参戦することもできた。これは井上プロの指導の賜物といってよいだろう。
しかし、ツアーに参戦して思うような結果が出なかったとき、この人に習ってみたいと思ったコーチを見つけた。YouTubeによる動画配信が人気で、コーチとしての知名度を高めていた三觜喜一プロだ。
すぐにコンタクトを取り、スイング動画を送ったところ、「こういうミスが出るでしょ?」と指摘され、それが的確だったことから、幡野は三觜プロに教えを請う決断をする。