欧米を追わず、中国とも違う「逆張り戦略」

つまり、トヨタが取るべき戦略は、欧米や中国とは真逆の逆張りの戦略であろう。欧米や中国がEVシフト一辺倒の戦略を取っており、産業政策をテコに外国企業を締め出し、自国の雇用確保と産業保護に走っている。BEV関連の原料は中国が95%を押さえ、バッテリーにかかる費用が高騰している。従って、固定費削減を日本の自動車メーカーができない状況にある。

また、マルチパスウェイ戦略は、他の自動車メーカーが取れない戦略でもある。カーボンニュートラル対応(トヨタだけが取れるマルチパスウェイ戦略)と移動価値の拡張(「電動化」「知能化」「多様化」する社会におけるデータを活用した周辺事業の付加価値サービスの提供と新規事業創出)で収益を拡大できれば、限界利益が改善し、EV領域に充てることが可能となるのである。

トヨタの最大の課題はソフトウェア開発

2023年4月、トヨタは「新体制方針説明会」において、企業にとってのパーパスにあたるTMC(Toyota Mobility Concept)を公表した。主に3つのフェーズが存在し、サービス範囲を順次拡大していく意向を示した。

柴山治『日本型デジタル戦略 暗黙の枠組みを破壊して未来を創造する』(クロスメディア・パブリッシング)

・「1.0 クルマの価値の拡張」
クルマのOS化を進め、オープンアーキテクチャのクルマへ進化させる。
・「2.0 モビリティの拡張」
フルラインナップのクルマ・モビリティサービス・仲間たちとモビリティの拡張を実現させる。
・「3.0 社会システム化」
クルマが社会のデバイスとなり、エネルギー・交通・物流・暮らしのエコシステムをクルマが形成する。

トヨタの方針から見えてきたことは、すべてのフェーズにおいて共通する課題はソフトウェア開発であろう。戦略として導き出したサービスの拡張においても移動に係るデータ、つまりデジタル化が課題である。産業変革の中心にいる企業が、不確実性の高い時代を生き抜く術は、商品のソフトウェア化とサービスのデジタル化である。

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