長くなる「制動距離」

法定速度の引き上げによって何よりも思慮すべきは、ドライバーが今まで以上に緊張感や集中力が求められるようになることだ。

スピードを上げると、ドライバーの動体視力が狭まり、ゆっくり走っていたら予測できる危険や、確認できる障害物が認識しにくくなる。

それだけではない。車体もコントロールが利きにくくなるうえ、「制動距離」も長くなるのだ。

写真=トラックドライバー提供
高速道路を走る大型トラック

制動距離とは、ブレーキを踏み、利き始めてから車両が止まるまでの距離のことで、重量が重くなるほど、そしてスピードが速くなるほどその距離は長くなる。

つまり、速度を上げることで視認しにくくなった危険や障害物を、今以上に早く認識しなければならなくなるのだ。

こうしたスピード引き上げによるドライバーへの負担は、誰もが容易に想像できるはず。

そんななか、荷物を優先し、よりによって「働き方改革」というタイミングでドライバーの疲労を増やすような策を講じるのは、もはやドライバーを軽視している表れだとも言える。

「性能向上」は理由にならない

重量のあるトラックがこれまで時速80kmに制限されてきたのは、普通車よりもこの制動距離が長いせいだ。そのスピードを上げれば、リスクが増えることは誰もが想像できるはずだ。

そんななか、今回「時速90kmにできる」とした国や有識者らの根拠のひとつに、「トラックの性能の向上」が挙げられている。

が、テレビを付ければトラックが絡んだ交通事故が連日のように報じられているのが現状。

10年前と比べれば同事故はほぼ半減はしているものの、未だに年間1万件以上の事故が起きているうえ、令和3年(2021年)においてはむしろ増加すらしているのだ。