4月から、高速道路で大型トラックに適用される法定速度が時速80キロから90キロに引き上げられる。元トラックドライバーの橋本愛喜さんは「物流危機対策というが、ドライバーの負担が大きくなるだけで、物流の効率化にはまったく寄与しない。こんな改革はやめたほうがいい」という――。
トラックのフロント部分
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この国は「荷物」の心配しかしていない

2024年4月1日の施行が近づくたび、ひそかに強くなっていった思いがある。

「こんな『働き方改革』ならばもうやめてしまえ」だ。

すでに聞き慣れているであろう物流の「2024年問題」という言葉。

世間では一般的に、「トラックドライバーの時間外労働が960時間に制限されることで、これまで運べていた荷物が運べなくなる問題」とされているが、長年第一線の運送企業やトラックドライバーたちを追い続けてきた筆者にとって、この問題は「世間や荷主の無関心と国の見当違いな対策によって物流が崩壊する問題」だと強く思っている。

忘れてはならないのは、2024年問題の源流にトラックドライバーの「働き方改革」があるということだ。

「働き方改革」の目的は、言わずもがな「労働者の労働環境を改善すること」。

しかし施行までの準備期間を振り返ると、荷主も世間も、最後まで「トラックドライバー」の心配ではなく「荷物」の心配しかしていなかったように感じる。

いや、荷物を想うあまり、むしろ結果的に当事者であるドライバーの首を絞めるような方針すらある。

そのため「ならばもうこんな働き方改革なんてやめてしまえ」、と思うわけだ。

法定速度の引き上げは「百害あって一利なし」

なかでもトラックドライバーたちから「現場の首を絞める愚策だ」との反発が大きい24年問題対策がある。

それが「高速道路における法定速度の引き上げ」だ。

国は今年2月、2024年問題対策の1つとして、トラックの高速道路における法定速度を現行の時速80kmから時速90kmに引き上げる政令案を閣議決定した。

実は同案は、ずいぶん前から現場を走る多くのトラックドライバーたちから「事故が起きる未来しか見えない」、「結局荷物(の心配)かよ」といった反対の声が非常に多くかつ強く上がっていた。

しかし、ドライバーのルールをつくる行政や有識者、自社のトラックが早く走れると都合のいい一部大手企業、現場に無関心な団体などからの声によって固まっていき、今回の閣議決定に至る。

つまり、「荷物第一主義」のもと、「労働時間短縮で荷物が運べなくなる分、運ぶ速度を上げればいい」と解釈したわけだ。

さらに、一部の識者からは「法定速度を上げることでトラックドライバーも早く家に帰れるから法定速度の引き上げはドライバーのためになっている」という、これぞという机上の空論まで出たが、同案はドライバーにとって、そして我々一般の道路使用者、消費者にとっても、百害あって一利なしだと断言できる。