「体の奥にネクタイをしているイメージをして」
私が「ヒップリフト」というトレーニングを教えてもらったときのことです。「ヒップリフト」とは仰向けに寝て両膝を立て、ゆっくりとお尻を持ち上げるトレーニングのことです。私がひょいっとお尻を上げると、トレーナーに注意されました。
「ただお尻を上げてもだめ。ちゃんと胸骨が下がっていないと意味がないの」
そう言われて、私が「胸骨ってどの骨?」と思っていると、トレーナーはわかりやすいたとえを使って指示を出してくれたのです。
「体の奥にネクタイをしているイメージをしてください。息を吐きながらそのネクタイを持ってグーっと下に引っ張るイメージをしてみて」
言われた通りにイメージすると、勝手にお尻が浮き上がってきました。ただお尻を上げたときと比べて、筋肉への効き方がまるで違います。
「どうしてネクタイと思いついたのですか」とトレーナーに聞いてみると、「胸骨の形がネクタイに似ていると思ったから」と言って、骨格標本を見せてくれました。
説明上手な人は常に「何かにたとえるとしたら?」を探している
私の中国語の発音矯正の先生も、いつもわかりやすいたとえを使って教えてくれます。私が中国語の「ウ」の発音に苦戦していると、先生は、「アツアツのたこ焼きを口に入れたとき、どんな風になる?」とヒントをくれました。アツアツのたこ焼きを口に入れたときをイメージすると、舌を思い切り下げて、口の中の空間が縦に大きくなりました。そのまま発音すると、正しい発音ができるようになったのです。
しかも、自分ができるようになっただけでなく、自分が教わった通りのことを他の人に伝えると、その人もできるようになりました。わかりやすいたとえは、「再現性」があるのです。
こうした教え方の上手な人たちに共通しているのは、「できている状態」をよく観察していることです。その状態とよく似た状態を探して、具体的で身近にあるものに置き換えているのです。「何かにたとえるとしたら?」と常に問いを持ち、身近なものを観察していくことで、「たとえる力」は養われていきます。