相手のレベルに合わせて言葉を使い分ける
注意しなければならないのは、こうした専門用語だけではありません。
ある日、中国人と会議をしていたとき、日本人社員が「計画との間に齟齬をきたした」という報告をしました。しかし、中国人の通訳が「齟齬」の意味を理解できずに困っていたのです。「計画通りに進まなかった」のように表現すれば、誰にとってもわかりやすいですよね。
これから社会の多様化が進んでいきます。外国人と接する機会も増えてくるでしょう。誰にでもわかる「やさしい言葉」を使うように心がけたいものですね。
時折、「専門用語を使って説明しないと、プロにみられないのではないか」と誤解している方や、「こんなやさしい表現にしたら、相手に失礼なのではないか」と恐れている方がいらっしゃいます。でも、大事なのは、「相手のレベルに合わせて、相手が理解できるように言葉を使い分ける」ことです。専門用語を使わずに、誰にでもわかりやすい言葉で説明したほうが、相手からバカにされるどころか一目置かれるはずです。
専門用語はみんなが知っているものに置き換える
どの仕事にも、その仕事特有の専門用語があります。あなたの仕事では、どんな専門用語が使われていますか。私は会社を辞めて独立し、個人事業主としてスタートした頃、それまでの会社員人生では見聞きしたことのない多くの言葉に出くわし、面食らいました。今ではその言葉を普通に使っているため、会社勤めの知人から「何それ?」と聞かれて、「しまった。これも専門用語だった」と気づくことがあります。
日常的に使っている言葉は、それが専門用語であることを忘れてしまいがちです。
もちろん相手が自分と同じ分野の仕事をしている人や、その道に詳しい人ならば、専門用語を使って説明するほうが伝わります。用語によっては、該当する日本語がなかったり、ニュアンスを正確に伝えられるような表現がなかったりする場合もあるので、専門用語のまま話したほうがわかりやすいのです。でも、相手が関係者でない場合は、専門用語を使わずに説明する必要があります。
例えば、私は会社員時代、工場の「動力部門」という部署で仕事をしていました。この「動力部門」とは、どんな部門なのかを説明してみましょう。
「『動力部門』というのは、工場の受変電設備や熱源設備を運転、管理する部門です」
同じ職種の方でしたら、この説明でもイメージできると思いますが、そうでない方には聞き慣れない言葉が並んでいてよく理解できません。さらに、「受変電設備とは、電力会社から高圧の電気を受け入れて、低圧に変圧する設備で……」とか、「熱源設備とは」などと説明し始めると、もう聞きたくなくなってしまうのではないでしょうか。そこで、こんな風に説明してみます。
「『動力部門』というのは、『工場の心臓部』のようなものです」
こうすることで、「止めてしまったら大変なことになる部門だ」というイメージは伝わるのではないでしょうか。そのうえで、「工場で使う電気を送ったり、冷房や暖房のための設備を運転、管理している」と伝えれば、どんな部門なのかを相手に理解してもらうことができます。