目先のことばかり求めていると矛盾が生じる
客にはどんどん株を買い替えてもらわなきゃならない。そこで、売り上げを上げるためには、株を買い替える回転速度を速めて、しかも、規模を大きくする必要がある。回転速度を速めるために、株価をどんどん高くしなきゃならない。
株価を上げるということはバブルを生み、それはいつか弾けてしまうものだ。株価を吊り上げるというのは、自分の首を絞めること――よく考えてみればわかることなんだけど、人間、そして企業というものは、得てしてこうした「視野狭窄」に陥る。利益を上げろというと、もうそれだけしか見えなくなる。安易な道に走って自滅してしまう。視野狭窄に陥ったあげくに、バブルが弾けて、客の不信感がドーンと強まり、いま証券会社はそのしっぺ返しを受けているわけです。非常に苦い体験をしている。
この体験の中で、証券会社がどこも客との関係、客と企業の関係について、基本の基本からもう一度作り直そうとしているんです。
自分たちはバブルの中で視野狭窄に陥ってしまい、客のニーズが見えなくなり、あるいは自分の商売が見えなくなり、社会というものが見えなくなって突っ走ってしまったと。さっき言ったニチイの例もこれと同じ。目先のことばかり求めていると、最後には大矛盾が起きてしまう。
「自然体になる」と「手を抜く」はまったく違う
よく野球でピッチャーに“肩の力を抜け”という。自然体で行けということですね。肩に力が入り過ぎるというのはね、リキミ過ぎる、意識をし過ぎるということだ。
そのため間違って力を入れてしまって、自分の力量や自分のやらなきゃいけないことがわからなくなり、空まわりしてしまう。あるいは自分の置かれた状況すら判断できなくなる。つまりこれは視野狭窄でしょう。自然体になるということは、もっと視野を広くしろ、よく見ろということなんです。
僕がこの年になってもよく間違うのは、自然体になることと、手を抜くことの違いを、錯覚してしまうこと。自然体になる、マイペースでいくことと、手を抜くことは正反対なんだ。結局世の中、うまい話なんてのはない。要領よくやろうとか、うまく立ち回るってのも、結果的に損している人が多いと思う。