質的な変化をしつつビジネスを広げていく前段階で売却する

第二フェーズは、ビジネスを拡大していく時期です。たとえば、あなたが映像制作会社を立ち上げたなら、制作できる動画クリエイターメンバーを増やし、チームを増強し、より多くの案件を受けられるようにするということです。

第二フェーズは第一フェーズよりは難易度は低いのですが、余計な手間を増やして難しくしてしまう人も少なくありません。そのコツは後述しますが、この段階では最初のビジネスモデルを忠実にコピーするのがポイントです。

自分で作って成功したビジネスモデルですから、コピーするのは決して難しくありません。

第三フェーズは第二フェーズのようなコピーによる拡大ではなく、質的な変化をしつつさらにビジネスを広げていく段階です。飲食店を経営しているなら、他の店舗を買収や上場をするなど、そのくらいのフェーズです。

第三フェーズは、多くの企業にとって鬼門になります。第二フェーズまでは順調に来ていても、第三フェーズで一気にコストが大きくなるからです。従来のやり方を続けていると、足元をすくわれかねません。

本書が目指すミニマム・イグジットでは、この第三フェーズに入る直前に企業を売却することをイメージしています。ですが、この三つのフェーズを理解することが成功のカギを握っています。もう少し詳しく解説しましょう。

最終形は「社長が現場の仕事をしない」

大切なことは、社長のやるべき仕事や役割が、フェーズごとによって変わることです。失敗した企業の多くは、このことを見落としています。

第一フェーズでの社長の仕事のうち、もっとも重要なものが営業です。仕事がなければ利益は得られません。第一フェーズでの目標は、コストを抑えてとにかく黒字を出すことでした。そのためには、まずは営業です。

さて、めでたく第一フェーズをクリアしたら、社長の仕事には従来通りの営業だけではなく、新しい仕事が加わります。

第二フェーズとなる自分で作ったビジネスモデルをコピーして拡大する段階に入りますから、スタッフを増やさなければいけません。具体的には、人材の募集と、その人材を適切なところに配置する仕事です。

さらには、今後のためのスタッフ育成も必要です。第一フェーズは社長個人の力がもっとも重要で、裏を返すと社長の力さえあればどうにかなる面が強いのですが、第二フェーズ以降はそうはいきません。

特に第三フェーズは、育成の結果に左右されます。第三フェーズに入った会社では、社長は現場の仕事をしてはいけません。ラーメン店なら、第一フェーズでは社長自ら厨房に立って必死で黒字を目指しますが、第三フェーズでは厨房ではなく社長室で仕事をすることになります。

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そのとき店舗に立つのが、それまで育成してきたスタッフです。育成の結果が店の評判に直結するのです。

よくある失敗は、会社は第三フェーズに入っているのに、社長が自らに求められる役割が変わっていることを理解せず、自分が厨房に立っていた第一フェーズの感覚を引きずってしまうパターンです。そういう会社はたいてい失敗しています。