都心立地でシングル向けの「焼肉ライク」

ターゲットを絞って成功している焼肉店は、焼肉きんぐ以外にもある。

例えば、焼肉ライク。一人焼肉という言葉を一般的にした立役者である。焼肉ライクも堅調に成長を続けており、特に22年から23年への出店増加率は13.25%と非常に高い。

前出のロケスマで焼肉ライクの立地を見てみると、そのほとんどが都心の駅前立地であることがわかる。焼肉きんぐと正反対なのだ。

撮影=谷頭和希
焼肉ライク 新橋本店

こうした立地は郊外に家を構えるファミリー層ではなく、都心に近いところに住むシングル層や都心に通勤するサラリーマンの「おひとりさま」需要を狙っている。メニューもシングル向けのものになっており、特に焼肉のサブスクともいえる「焼肉フィットネス」というサービスは、ジムに通うトレーナーに向けたサービス。月定額で、筋トレに向いた焼肉メニューが食べ放題になる。サラリーマンの少なくない数が筋トレを趣味にしている現代、一人で毎日通う客もいるほどの人気を博し、2022年のヒット商品番付にも名を連ねた。

焼肉きんぐと焼肉ライクは、出店立地とターゲットを明確に絞ることで、焼肉が普通に食べられるようになった時代以後の焼肉チェーン業界を強力に牽引しているといえるだろう。

特徴的な焼肉チェーンの登場も

ターゲットを絞る戦略で勢いを付けつつある後続の焼肉チェーンも注目だ。

先ほどの日本ソフトが発表しているランキングを見ると、出店増加率が高いチェーンとして、「ときわ亭」(21.11%)、そして「ふたご」(3.95%)がある(ちなみに「熟成焼肉いちばん」の出店増加率は30.30%と非常に高いが、これは元々あった「牛庵」を同店に変えているので、今回の考察からは除外した)。まだまだ全国出店数は少なく、その成長予想はできないが、それぞれに興味深い特徴がある。

例えば、「ときわ亭」。ここはホルモン焼肉を売りにしているが、もう一つの名物が「0秒レモンサワー」だ。各テーブルにレモンサワーが出てくる蛇口が付いていて、0秒を売りにしている通り、着席した瞬間からレモンサワーが飲めるという趣向だ。宮城県が発祥のチェーンで、フランチャイズを拡大しながら出店を伸ばしている。

出店場所を見ると、焼肉ライクと似ていて都心を中心にした出店をしており、アルコールを飲む層に特化した戦略を取っていることがわかる。電車を使って帰ることのできる場所に積極的に出店しているということだ。

また、「ふたご」も面白い。ここは、「厳選和牛を量半分・値段半分」で売ることを売りの一つにしており、シングル層や、少人数利用にターゲットを絞っている。焼肉ライク的な路線で勝負しているのだが、焼肉ライクと比べると、より高品質でちょっとした贅沢を楽しめるようにしている。この出店立地も、都心型であり、対象とする層がはっきりとわかるわけだ。