「牛角」「安楽亭」はまんべんない立地で特徴がない?

こうした傾向は、他の焼肉チェーンを見ると顕著だ。

例えば、焼肉きんぐに比べて伸び悩んでいる「牛角」「安楽亭」は、それぞれ立地を見ると、郊外のロードサイドと、都心の駅前、両方にまたがる形で日本全国に満遍なく出店していることがわかる。

焼肉きんぐに比べると、早い時期から全国にチェーン展開をしていたこれらの焼肉屋は、それまでの個人経営の焼肉屋とは異なり、手頃な値段で全国どこでも一定以上のクオリティの焼肉を食べられることが一つの売りだった。

焼肉店の網で肉を焼く
写真=iStock.com/gritwattanapruek
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しかし、こうした焼肉チェーンの存在がスタンダードになった現在、全国にまんべんない出店があることはむしろ、ターゲティング自体がぼやけて総花的になり、特徴のない店舗になってしまうことを意味しているのではないだろうか。簡単に言えば、消費者がわざわざ行こう、と思う力が相対的に低くなってしまっているのではないか。

安楽亭について、同店は「安心安全」を売りにしているが、コロナ禍以後、安心安全に食べられることは当たり前のことになっていて、それ以外に大きな特徴があまりない安楽亭には人が集まりにくいのではないかと指摘している識者もいる(不破聡氏)。

いずれにしても、さまざまなところにあるという立地は、そのターゲットが広すぎるということを表しており、それゆえに往時のような勢いがなくなってしまったことが指摘できるのかもしれない。

ターゲットを絞る戦略は、特に焼肉店の場合は有効に働く。焼肉は、ハレの日の食事であり、それだけに顧客にとっては、その分、店にかける期待度が高い食事だからだ。わざわざ行くなら、十分に満足できる店に行きたい、そう思うのが顧客の心理だ。したがって、ターゲットを絞り、よりそれぞれの顧客に刺さる店が強いといえるだろう。