退役後はテロと戦うコンサルタントに
【手嶋】ベンヤミンは軍を退役すると、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学で政治学を学び、優れた成績を収めたといいます。その後、ボストン・コンサルティング・グループで経営コンサルタントになります。この人から経営指南を受ける会社は戦闘的すぎてどうなるのか、ちょっと心配になりますが(笑)。
【佐藤】長兄ヨナタンが亡くなった後、ベンヤミンは1976年に対テロリズム研究機関「ヨナタン研究所」を自ら設立しています。テロリズムの本質とは何か。いかにすればテロに勝てるのか。それをひたすら研究し、教えています。
【手嶋】兄の遺志を後世に引き継ぎたい。そんな思いがその後の行動に滲んでいますね。同時に対テロ活動を特殊部隊の実戦レベルから、さらに理論に高め、政策と戦略に結実させたいという志も伝わってきます。ベンヤミンという人物の知的水準のほどが窺えます。
テロには屈しない意志こそ全てという信条
【佐藤】ネタニヤフの著作『テロリズムとはこう戦え』(落合信彦監修・高城恭子訳、ミルトス刊)によれば、ヨナタン研究所が最初に主催した国際会議がエルサレムで開かれると、後に、アメリカ大統領候補となるジョージ・ブッシュ、後のパパ・ブッシュ大統領も姿をみせたといいます。テロは政治的、社会的な抑圧の結果生まれるのではない。独裁国家とテロ組織が国際的なネットワークを張り巡らし、その共謀の果てに生まれると力説しています。
【手嶋】後に、ブッシュ・ファミリーは、湾岸戦争からイラク戦争へと、“テロとの戦い”を主導していくのですが、パパ・ブッシュの国際会議への参加は、深い因縁を感じさせますね。
【佐藤】暴力的な手段と恐怖による支配を通じて自らの政治目的を達成する。これがテロリズムの本質だ。ネタニヤフはそう信じているのでしょう。そんなテロリストの邪悪な意図と手段に対峙するには、絶対に屈しないという意志こそが全てだ。これがネタニヤフの思想であり、信条なのです。それを認めるかどうかは措くとして、そんな彼の内在的論理を理解しないまま、ネタニヤフといくら交渉しても打開策は見つからない。彼の人生に思いを致すことなく、批判だけしていても、解決のきっかけは見つかりません。