始まりは過疎地域の生き残り策

「地域みらい留学」とは、子どもたちが親元を離れ、地方の公立高校に越境入学するのを手助けする制度のことだ。

越境入学というと、スポーツ強豪校が全国から優秀な選手を集めるケースや、全寮制の私立の進学校などのイメージが強いかもしれない。しかし、地域みらい留学では、スポーツや学業で優秀な成績をあげている必要はない。多くの場合、ごく普通の子が、普通の公立高校に進学する。

特殊な点があるとすれば、受け入れ先の高校の多くが過疎地域にあり、生徒数の減少に悩んでいることだ。

運営するのは、一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォームという組織。その代表理事である岩本悠さんが、島根県の隠岐島前高校の「島留学」に携わったのが事の始まりだった。詳しい経緯は連載後半で紹介するが、背景にあったのは離島における少子高齢化、過疎化の現実である。

都市部ではまだ実感しにくいが、日本全体の人口はすでに減少に転じている。それに加えて、地方から都市へ人口が流出し、全国1741の市区町村の半数が2040年には消滅するという予測もある。

住民が減れば、その地域の学校の存続も難しくなる。実際、過去20年の間に公立の小学校・中学校・高校合わせて8580校が廃校となっている。学校がなくなれば、子どもは地域の外に出ざるをえない。そうすると、ますます過疎化が進み、地域は衰退するという悪循環に陥る。

その解決法のひとつとして考えられたのが、都市部の子どもたちの地方への“留学”だった。人流を逆にすることで、過疎地域の高校の生徒数を維持し、地域の活性化をはかろうというわけだ。

2019年に34校からスタートしたこの地域みらい留学という制度。いまでは北海道から沖縄まで全国110校に拡大し、注目を集めている。

写真提供=地域・教育魅力化プラットフォーム
全国の地域みらい留学参画高校が一堂に会する「合同学校説明会」

留学した子どもたちは寮や下宿で生活し、豊かな自然のなかで、全国から集まってきた生徒、地域の大人たちとふれあい、実践的な学びを経験する。公立高校なので授業料は安く、一カ月の生活費も寮費込みで3~6万円程度と、都市部で暮らすよりむしろローコストな点も魅力だ。

都市部で課題を抱える親子のニーズにマッチした

この仕組みが優れているのは、地域側の課題と、都市部の子どもたちが抱える問題、双方のニーズを結びつけたところにある。

文部科学省の調査によると、不登校の小中学生やいじめの認知件数は、2022年度過去最多を記録した。不登校の小中学生はおよそ30万人。いじめの件数は小・中・高、特別支援学校を合わせて約68万件に上った。小中学生の生徒数は全国で約923万人だから、3%以上が不登校ということになる。もはや不登校はけっして特殊な例ではなくなっているのだ。

一方、地球温暖化、コロナ禍、戦争、AIの発達など、不安を感じさせる事態が相次ぐなか、「子どもには、社会の変化に対応して生き抜く力を身につけてもらいたい」と考える親も多い。それに応えるように、教育現場でもアクティブラーニングや探究学習、あるいはインターンシップなどが取り入れられつつある。

ある意味、少子高齢化・過疎化が進む地方は“課題先進地”とも言える。そこでリアルな社会問題に接し、体験しながら学ぶことは、これからの時代を生きる子どもたちにとって大きな意味がある。

つまり、地域、子ども、親、それぞれにとってメリットのある“三方よし”の仕組みが地域みらい留学ということになる。