日本はまだまだ世界に冠たる資産大国
さらに大きいのが非課税期間である。配当や売却益に課税されない期間は、旧制度の「つみたて」は20年、一般は5年に過ぎなかったが、新制度は期限が撤廃されて恒久化された。しかも、資金が必要になって売却した場合に、空いた投資枠を翌年また使えるようになるという仕組みになった。配当や売却益に対する分離課税の税率は20%だから、このメリットは大きい。政府からすれば相当な税収減になる可能性もあるが、「投資」に家計資産をシフトさせることを優先したということだろう。
背景には、前述のように家計には1117兆円もの資産がある。日本の経済力低下が言われているが、まだまだ世界に冠たる資産大国であることには違いがない。ところが、この家計資産が「現預金」に置かれていることで、低金利の中でほとんど収益を生んでいない。この金融資産が「稼ぐ」ようになれば、家計はより豊かになるというわけだ。また、日本の株式などにも資金が回れば、企業の成長を下支えすることにもなる。
「日本に残された最後の切り札かもしれない」
岸田文雄内閣は、「資産所得倍増プラン」を打ち出したが、要は資産大国として持てる資産をフルに生かして収益を上げようという、いわば資産大国戦略に大きく舵を切ったのである。もちろん、そこには深刻な少子化で今後、公的年金制度が行き詰まってくることを見据え、自助努力で老後資金を確保してもらいたいという思惑も見え隠れするが、それはひとまず置いておこう。日本経済新聞編集委員でNISA制度に詳しい田村正之氏は、「個人金融資産の2115兆円は日本に残された最後の切り札かもしれない」と語る。現預金1117兆円のうち仮に10%の100兆円が株式市場に流入したとしても、株価には大きなインパクトを与えることは間違いない。
NISAの投資先で人気を集めているのが全世界株式インデックス型の投資信託や米国株のインデックス投信などだ。前出の田村編集委員によると、信託報酬の低いインデックス投信で1990年1月から月3万円を積み立て投資し続けた場合、2023年の配当込みの資産総額は6800万円になったと試算できるという。かつて老後に2000万円必要だというレポートが出て大騒ぎになったことがあったが、きちんと積み立てて、運用をしていれば、それをはるかに上回る資産形成が可能だということだ。全世界株のインデックスで、世界の成長と同程度のリターンが得られれば十分だということだ。