がんになっても「お金のことなんて、誰も教えてくれなかった」

「仕事を辞める時、お金のことなんて、誰も教えてくれませんでした」

黒田尚子『がんとお金の真実(リアル)』(セールス手帖社保険FPS研究所)

傷病手当金の仕組みを聞いた遥香さんは、がっかりした様子でこうつぶやいた。残念ながら、患者さんの相談を受けていると、遥香さんのように、もっと早い段階で正しい情報を知っていれば良かったというケースは案外多い。もらえるお金を丸々損しながら、その事実をいまだに認識していない人も少なくない。

悪いことに遥香さんに関してはさらに残念な事実が判明した。

退職後の収入源となる雇用保険の「基本手当」。いわゆる失業手当とか失業保険とかと言われ、多くの人が利用している制度だ。この基本手当は、失業中の生活をまかない、離職者が就職活動に専念するために、失業する前の賃金の一定割合が給付される。

遥香さんも、退職後にハローワークで手続きをして、すでに基本手当を受け取っていた。問題は、基本手当が退職理由によって、受給資格が緩和されたり、給付開始時期が早くなったりするのを本人がまったく知らなかったことである。

遥香さんは、自己都合で退職したとして「一般受給資格者」となっていた。しかし、やむを得ない事情で退職をした人のために、「特定受給資格者」および「特定理由離職者」が設けられている。前者は、会社が倒産したり、解雇を命じられたりした場合、後者は、病気やケガが原因で退職した場合などである。要は、やむにやまれぬ事情で退職した人に対しては、優遇措置が設けられているのだ。