病気で治療や投薬を受けたいのに、経済的な負担の重さを理由に、それらを自ら辞退する患者が増えている。FPの黒田尚子さんは「そうした患者の懐具合に無頓着な医師は多い。(辞退で)患者の病気が治らない、また家族への金銭的な負担が大きくなるケースもあり、病院はもっと患者のお金に関する相談を、専門家を交えて親身に受け付ける体制を整えるべきではないか」という――。(後編/全2回)
医師の背面
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毎年約100万人が罹患りかんしている、がん。原因のひとつは細胞の老化と言われる。つまり高齢者が増えるとがん患者も増える。2025年にはすべての団塊世代が75歳を迎え、日本の人口の2割が後期高齢者に。他の世代よりも必要な医療費や介護費用が多くなる。

そんな中、がんは医療の進歩によって生存率が伸びている。もちろんそれは喜ばしいことだが、治療期間が長引き、医療費や生活費のねん出、治療と仕事の両立など、社会経済的な問題が患者とその家族にのしかかってくることも忘れてはならない。

筆者はFPとして、医療機関で、定期的にがん患者さんやご家族からの相談を受けている。本稿では、実際の相談事例から、がんによる経済的リスクのリアルとそれを取り巻く環境についてご紹介したい。

相談したFPががん患者さんの相談に精通しているとは限らない

前編では、子宮けいがんに罹患した30代女性の「医療とお金」に関して紹介した。この女性の場合、きちんと申請すれば300万円以上受け取れたはずの傷病手当金をもらうことができず、保育士の仕事を辞めたあとの基本(失業)手当も早く受け取れる可能性があったのに、それもフイにして、わずかな貯金を取り崩すことになった。原因は、自分に「知識」がなかったこと、また、周囲からそうした有益な情報がもたらされなかったこと。

術後も治療継続しているこの女性だが、いまだ新しい仕事を見つけることはできておらず、経済的に大きな不安を抱いている。

こうした事例を講演等で紹介すると、「もし、がんになったらぜひFPに相談したい!」という人が多い。同時に尋ねられるのが「それで、どこでFPに相談できますか」ということである。

筆者は、医療機関での相談以外に、個人で無料のピアサポートや有料相談を受けている。相談を申し込まれるパターンとしては、以前の顧客からの紹介のほか、本稿のようなウェブや雑誌、新聞などの記事、著書などを読んだり、セミナーを聞いたりして、HP経由で連絡をいただくことが多い。

また、筆者が所属している日本FP協会では、「CFP®認定者検索システム」があり、居住地や性別、年代、相談内容、得意分野に応じて、登録しているCFP認定者を検索できる。ここにも登録しているため、この情報を頼りに、相談を申し込まれるケースもある。

このほか、FPに相談したいのであれば、日本FP協会の全国の支部で定期的に無料相談会も実施しており、最近では民間保険の付帯サービスでFPに相談できるサービスを提供している保険会社もあるので、探せばいろいろと方法はあるはずだ。

ただ、たどり着いたFPががん患者さんの相談内容に精通しているかどうかはまた別の話だ。実際、筆者のところに来る前にFPに相談したという人の中には、

「休職中にFPに相談に行ったが、職歴やキャリアだけを見て、とにかく早く復職しろの一点張り。ホルモン治療のつらさなど全く聞いてくれなかった」(50代女性・卵巣がん)
「キャッシュフローを作成してもらったが、このままでは75歳で貯金が底をつくと言われて絶望した。そもそも、相談したかったのは、そんな先のことではなく、今のことなのに……」(30代女性・胃がん)

などと嘆く患者さんもいた。