基本手当は退職理由によって優遇措置が受けられる
とりわけ、基本手当の所定給付日数が長くなるインパクトは大きい。基本手当が受け取れる日数は、自己都合で退職した場合、退職した年齢にかかわらず、雇用保険の被保険者であった期間によって90~150日と決められている(【図表1】)。
一方、特定受給資格者および特定理由離職者、特定理由離職者のうち雇止めを受けた者の場合、日数は年齢と雇用保険の被保険者期間に応じて異なり、90~330日と、自己都合退職よりも長くなる可能性が高い(【図表2】)。
遥香さんは、「自分の都合で辞めるのだから」と、何の疑問も持たず、7日間の待機期間と2カ月の給付制限期間を経て、基本手当を受け取っていた。給付日数は120日で、日額5500円ほど。総額約67万円になる。
しかし、遥香さんが辞めたのは、がんと診断されたからである。特定理由離職者と認められれば、雇止め等ではないため給付日数は変わらないものの、2カ月の給付制限期間は免除される。貯金も少ない遥香さんにとって、1日でも早く基本手当が受けられるのはありがたいことに違いない。
自分の体調や治療の状況に応じて適切な制度を利用する
なお、特定理由離職者に該当するか否かは、勤めていた先や離職者本人が判断するものではなく、医師の診断書などに基づきハローワークが判断する。
筆者も、退職前後の患者さんには、「ハローワークに行った際、離職理由を説明して、特定理由離職者に該当しないか必ず確認してください」とアドバイスしている。
ただ、我々のような専門家は必ずしも相談者が「得する」ようにアドバイスするわけではない。患者さんの現状に応じて、適切な公的制度などを利用していくことを念頭に置いている。
例えば、そもそも、基本手当は、働く意思と能力はあるが就職できない「失業している状態」にあることが受給要件で、ハローワークで求職の申し込みを行わなければならない。遥香さんは、頑張ってハローワークに通っているものの、治療中の今、すぐに働ける状態なのだろうか。
基本手当の受給期間は、離職日の翌日より1年間と定められているが、実は、病気や妊娠出産などで、1年以内に30日以上継続して働くことができない場合は、最大3年間受給資格を延長することができる。
遥香さんは、がん治療で働くのが難しいと自己判断して傷病手当金を申請しないまま退職。ハローワークで基本手当の受給の資格期間延長手続きもしなかった。もし、傷病手当金の受給期間(最長1年6カ月)が終了して、体調が戻り働けるようになれば、特定理由離職者として、基本手当を受給しながら、求職活動をすることができたかもしれない。
医療機関における相談は、このように、患者さんの体調やお気持ち、治療の見通し、経済状況などにあわせて、ベストな選択肢をご提案していく。
ただ、患者さんの中には、「もらえるものはすべてもらいたい」とばかりに、「こうしたら、必ずもらえるんですよね」と専門家の言質や“お墨付き”を取りたがる人がいる。
筆者も同じ乳がんサバイバーとして、その気持ちはよく理解できる。でも、このような人は、自分でも何がしたいのかわからなくなり、かえってどの給付金も受け取れず、自滅してしまうパターンが少なくないことはお伝えしておきたい。(以下、後編へ続く)