「大凡戦」「茶番劇」とこき下ろされた

だけど世間の評価は散々なものだったな。今の総合格闘技なんかを見慣れたファンだったらもしかしたら理解できるのかもしれないけど、当時はまったく理解されなかった。

「大凡戦」「茶番劇」……ってこき下ろされた。しかも、矛先は“寝てばかりで闘おうとしない”ってことで猪木さんに向けられた。

写真=時事通信フォト
アントニオ猪木(右)がモハメド・アリにローキック(アリキック)を浴びせる(東京・日本武道館、1976年6月26日)

お金を払った客が文句を言うのは仕方がないけど、あの時、テレビ、新聞、雑誌で猪木さんのことをボロクソに言った有名人の名前、俺は今でもハッキリと覚えてるよ。あいつと、こいつと、こいつって。すでに2人ばかり死んでるけどね。

何もわかってねえヤツらが、「あんなの誰でもできる」とか言いやがってな。

あと、何も知らねえ有名人ならともかく、記者連中までボロクソに書きやがってな。

俺は記者に言いたかったよ。「俺らが糞だったらお前らは糞バエじゃねえか!」って。糞にたかって食ってるわけだからな。何をくだらねえこと書いてるんだって。

「どっちかが勝ってたら死人が出てたよ」

試合の判定で、遠山(甲)さん(日本ボクシング協会公認レフェリー)が猪木さんに勝ちをつけたけど、プロレス側と思ってた遠藤(幸吉)さんがアリにつけたから、俺たち新日本のセコンドは遠藤さんに激怒したんだよ。

アリの有効打がジャブ1発だったのに対し、猪木さんのローキックはかなりのダメージを与えていたから、猪木さんの勝ちだと思ったんだよ。

ところがドローだったんで「なんでだよ?」と思ったら、遠藤さんだけがアリにつけてたっていうんだよな。

それで俺と(ドン)荒川さんで「遠藤を探せ!」って会場中を走り回ったよ。とっ捕まえて、ぶん殴ってやろうってね。

だけどあとで考えたら、あれはドローでよかったんだよな。もしどっちかが勝ってたら死人が出てたよ。

だってあっち側にはピストルを持った人間がいたとか言われているし、もしかしたらこっちにもいたかもしれない。だから、たぶん遠藤さんは自分が悪者になってドローにしちゃったんだろう。今になればその気持ちがわかるよ。