とはいえ、これまでの「親分」が再びその座に返り咲くかどうかはわからない。むしろこれまでの「親分」はこれを機に追い落とされ、次世代がその座を奪い取り「親分」の顔ぶれが一新される可能性がある。いわば「代替わり」だ。

岸田首相が仕掛けた「派閥解散」の連鎖は、派閥を消滅させるのではなく、「親分」たちの世代交代を促し、あるいは派閥の再編を進め、自民党内の派閥勢力図を塗り替える効果をもたらすと理解したほうがよい。

自由民主党本部(写真=Junpei Abe/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

新しく「親分」の座を目指す者たちは、今の「親分」を蹴落とす「派閥解消」に大賛成だ。これは「政局」の一断面なのである。

新しい「親分」の顔ぶれ

今年9月の総裁選に向けて、各派閥の「親分」の顔ぶれはどう変わっていくのか、党内の派閥勢力図はどうなるのか。具体的にみていこう。

まずは裏金事件の中心だった最大派閥・安倍派(清和会)。解散が正式に決定して45年の歴史に幕を閉じ、四分五裂していく様相だ。

清和会は2001年に小泉政権が誕生した後、自民党の最大派閥として君臨し、安倍晋三総裁のもとで政権復帰した12年以降、全盛期を迎えた。安倍氏が21年参院選の遊説中に銃撃され急逝した後、岸田政権で要職を占めていた5人衆(萩生田光一前政調会長、西村康稔前経産相、松野博一前官房長官、世耕弘成前参院幹事長、高木毅前国対委員長)の集団指導体制となり、政界引退後も影響力を振るってきた森喜朗元首相が「大親分」として控えていた。

派閥はそもそも「この人を総理総裁に」という政治家を軸に結集するものだから集団指導体制が長続きするはずはない。森氏は「早く会長を決めろ」と催促していたが、5人衆は譲らず、リーダーをひとりに絞り込めなかった。そこへ5人衆全員が裏金を受け取っていたことが発覚し、一斉に更迭されて失脚したのである。派内からは5人衆の責任を追及する声が噴出し、収拾不能に陥った。

森氏も捜査線上に浮かび、事件発覚後は高齢者施設に入って「雲隠れ」することに。5人衆に自発的離党を迫る動きが強まると麻生太郎副総裁に「直談判」に訪れる一幕もあったが、森氏の威光は大きく陰り、影響力は急速に失われていくだろう。森氏を後ろ盾にしてきた5人衆の政治的復権もかなり険しい。

「安倍派5人衆」の失脚で注目される2人

リーダーを失った有象無象の約100人はこれからどうなるのか。「新しい集団をつくっていく」と明言しているのは、清和会創始者の福田赳夫元首相の孫である福田達夫衆院議員である。